見逃せないのは、主要国の低成長そのものが中間層の所得増を阻み、格差を助長した可能性だ。
要するに、先進国から仕事が減っているということらしい。
移民の問題もよく取り沙汰されるが、要するに「移民さん」がやる仕事を自分たちがしなくなっているわけで、「安く働く外国人は来るな」なぜなら「私は安くは働きたくないから」という理屈は少し無理があると思う。
そこには「自分も安く働くか」もしくは「もっと違う分野の仕事を模索するか」しか選択はないわけで、純粋な競争をしないで規制に頼る、というのはちょっと潔くない気がするのだ。
それはともかく。
世界中の先進国からあまり「成長の余地」がなくなり、新興国はどんどん差を詰めてきている「初めての21世紀」。
このまま進めば、「あと何百年か」をかけて世界は均質化し、環境問題も目処が立ち、「安定世界」に近づいていく、、と思うのは自分だけだろうか。
悲観論も絶えないけれど、ざっと千年単位で見ればかなり安定に近づいているような気がする。
ちょっと肩の力を抜いて自分たちの将来を考えてもいいのではないだろうか。
格差、グローバル化のせい? トランプ氏の「勝因」
まさかのトランプ氏勝利となった米大統領選。新興国台頭で苦境に陥った白人労働者層の不満が爆発したとされ、グローバル化と格差の関係が改めて脚光を浴びる。だが本当にグローバル化が元凶なのか。探ると様々な疑問に突き当たる。
ラストベルト(さびた工業地帯)と呼ばれる一角、米オハイオ州。「中国のダンピング輸出にさらされ、俺たちにはなすすべもない」。40歳代のフランクさんが働いていた製鉄所は今年初めに閉鎖された。新しい職場は自宅から遠く、賃金も減った。口ぶりに悔しさがにじむ。
■取り残された層
トランプ氏勝利の陰にあるのは「グローバリズムへの恐怖と、行きすぎを制御したいという欲望」。オバマ大統領は自らこう説いてみせる。
1980年代末から進んだグローバル化では新興国経済が急成長し、国家間の所得格差は縮小した。取り残されたのが欧米の低中所得層だ。自国内では一部の高所得者が潤い格差は広がった。グローバル化を目の敵にするのもうなずける。
だが格差の原因はグローバル化だけではない。金融危機が本格化する直前の2007年に国際通貨基金(IMF)が一つの解を示していた。所得格差を示すジニ係数が00年代前半にかけ悪化した原因を分析。先進国内では「技術進歩」も格差拡大に同じくらい影響を及ぼすとの結論に達した。
IMFは技術進歩の度合いを測るモノサシとして、IT(情報技術)関連が総資本に占める割合を用いた。ジョージ・メイソン大学のコーエン教授はITを使いこなせる一部の人と、仕事を奪われる人の二極化を招いたと断じる。
もっとも「格差の共犯」とされるその技術革新も金融危機後は停滞が鮮明。貿易量も頭打ちでグローバル化の歩みも鈍い。それでも多くの国の内部でなお格差拡大が続くのはなぜなのだろう。
見逃せないのは、主要国の低成長そのものが中間層の所得増を阻み、格差を助長した可能性だ。スイス金融大手UBSが金融危機後の世界貿易(輸入)の伸びが危機前に比べて鈍った要因を分解したところ、主要国(中国を除く)の需要減退の影響が全体の59%分にも上った。中国の貿易構造の変化が23%で続く。
危機後の大規模な金融緩和が格差拡大につながったとの批判もある。株高などで金融資産を多く持つ富裕層は潤ったが、経済の実力は高まらず、中低所得層の所得は増えなかったという理屈だ。
■むしろ負担増す
ではトランプ氏の政策は格差是正に寄与するのか。目玉は「レーガン政権以来」とうたう大型減税だ。簡素で公平な税制と経済活性化を両立したとしてレーガン税制は今や世界のお手本ともされるが、ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン氏は減税の恩恵が富裕層に偏ったと批判。実際、1980年代は富裕層へ急速に所得集中が進んだ。仏経済学者、トマ・ピケティ氏は「悲劇的なのは、トランプ氏の政策がもっぱら不平等を強めてしまうこと」と言う。
移民の制限や保護貿易など反グローバルの姿勢も際立つ。国を閉じて米製造業を復活させれば、中間層も潤うという考えだ。ペンシルベニア大のギャレット教授は「メード・イン・アメリカは美しいスローガンだが、米国ですべてを一からつくれば価格は急騰する」と中間層の負担はかえって増すと警告している。
IMFは「グローバル化を拒絶するのでなく、より良く管理すべきだ」(オストリー調査局副局長)と主張。自由貿易などの利益を追求すると同時に、その負の側面を和らげる所得再分配を強める必要があるという。技術革新を促す策を含め、成長の持続性を高める政策パッケージこそが合理的との結論に行き着く。
(ニューヨーク=大塚節雄)