貯蓄する女子を「富女子」と呼ぶらしい。
未曾有の高齢化社会の到来が、結局は「お上頼みで自立心を欠く典型の日本人」(行政や大企業の不効率な仕組みを見るとよく分かる)に対して「大逆転
の自衛策」をもたらして居るのかもしれない。
もう"政治頼みでの解決は無理だろう"というくらいはみんなが感じている。
優れた為政者はこうして「絶望的な状況」から国民自らの発露を促す、という究極の統治をするのかもしれない。(だとしたらすごいことだ)
物も買わず、趣味の享楽も外食もせず、ストイックに貯蓄をする姿は見ていてどこか清清しい。
ラグジュアリーには金は使わず、それでいて自己投資には積極的。
こんなライフスタイルが身につけば、実は「それほどの貯蓄も要らない体質」になっていそうだが、そういう人はますます貯蓄を増やしていくだろうことは想像に難くない。
アリさんは貯蓄こそが趣味なのかもしれない。
貯蓄1000万円「富女子」台頭 20〜30代、節約極める
「5年で1000万円をためる」――。そんな目標を掲げてコツコツと節約にはげむ20〜30代の女性が増えている。その名も「富女子(ふじょし)」。お金をためて手に入れたいものはブランド品などの高額品ではなくて、将来への安心感。1000万円をためてもまだ不安はぬぐえずアパートの大家になった女性も現れた。富女子の生態に迫った。■美容はカットモデル、自作アクセサリーは数十円
年収500万円以下の普通の女性が貯蓄を積み上げている平日の夜、東京・渋谷のマンションの一室で、20〜30代の女性10人が真剣に話し合っていた。
「ボーナスの月はもっとためられるんじゃない?」「これ、無謀な計画では」――。みな自分の年収や貯蓄額を包み隠さずにさらけ出す。手元の資料をのぞくと、「5年1000万達成計画」と書いてある。ワイズアカデミー(東京・渋谷)が開く女性のためのお金のため方・投資勉強会「富女子会」。代表の永田雄三さんが時折アドバイスをするが、基本的には、参加者が持ち寄った計画書を見ながら議論する。サークルのような雰囲気だ。
「5年で1000万円貯蓄」を目指す20〜30代女性の集まり「富女子会」(東京都渋谷区)
2013年に始めた頃は会員は10人程度だったが、口コミなどで広がり150人に増えた。
会社員や学校の先生、薬剤師など様々で年収は多くが500万円以下。励まし合いながらコツコツと節約する一方で、月々の貯金の多くを低リスクの投資に回している。これまでに約50人が500万円以上を達成し、なかには1000万円の目標をクリアした人も。参加者の1人は「こんなにためたんです」と通帳をみせてくれた。
なぜこれほど懸命にお金をためているのだろう。参加者に聞いてみた。みな口々に「いつか結婚して子どもが生まれたら、いまのように働き続けられるか分からない」という。子どもが認可保育園に簡単に入れない今。結婚していないうちから子どもを育てて働く将来を案じているようだ。
都内に住む渡辺瑠美さん(30)が1000万円を目指したのは5年前。「はやり廃りがない着回しができる服を何年も着ている」。見ると欲しくなるのであまり店に足を運ばない。サルビアなどの花を金具と合わせて数十円でアクセサリーを作り、シンプルな服のアクセントにしている。
髪を切る時はアプリを使って美容室のカットモデルに応募。「失敗しても、また伸びるからそれで十分」。賃貸マンションの自宅ベランダでリーフレタスなどを栽培し料理につかう。目標があるから、いまの暮らしも「苦に思わない」という。
別の女性(28)は買い物をする際に「それが欲しいものか、必要なものか、徹底的に選別」する。約700万円をため、彼氏もいる。それでも「結婚しても幸せになれないかもしれない。年金だってどうなるか分からない」と打ち明ける。
川崎市の女性(28)は貯蓄額1000万円まであと一歩だ。やはり外食はめったにせず、自宅で多めに作った夕食の残りを朝食や昼のお弁当のおかずにしている。化粧品はずっと数百円ほどの「ちふれ化粧品」。買い物はイオンなどで、百貨店にはまず行かない。
自宅で食用のハーブやアクセサリー作りの材料にする花を栽培する30代の女性
独身だけではない。東京都豊島区の会社員(29)は既婚者だ。家賃や生活費は夫と折半で、お財布は別々。毎月ためる約7万円はもともと「ないもの」としてやりくりをして、昨年末に念願の1000万円を達成した。ご主人がいますよね? 「でも、夫と離婚や死別する可能性はないとは言い切れないでしょう」ときっぱり。思わず「そうですね」と男性記者(30)もうなずいた。
仕事、結婚、子ども、ローン、年金……。将来への漠然とした不安が富女子たちを貯蓄へと駆り立てる。お金をためてラグジュアリーな暮らしをしたいとか、高級ブランドの数百万円する時計など大きな買い物をしたいわけでもない。得たいのは「安心感」。お金がたまると自信もつき、「周囲からも見違えるほど、雰囲気が明るくなったといわれる」(20代の女性)という。■将来に備えアパートに投資
不安という感情はやっかいで、1000万円ためても必ずしも不安がなくなるわけではないようだ。富女子の次なるラウンドは不動産投資だ。1000万円をためてアパート経営を始めた女性
横浜市内の駅徒歩12分。1000万円ためた女性(29)に案内され、ベージュの壁のアパートに着いた。「私がここの大家です」とほほ笑む。目標の1000万円を達成しても「不安がなくならない」。アパートの大家ならローリスク・ミドルリターンで身の丈にあった投資だと考え、昨年末に1棟丸ごと4000万円で購入した。月々の16万円のローンを返すが、全部屋は満室で24万円の家賃収入を得ている。夫からとくに反対されなかったという。
アパート経営をはじめ不動産投資に関心のある若い女性が年々増えている。会員数が8万人を超えるファーストロジックが運営する不動産投資サイト「楽待」では、主婦の登録が11月時点で約1640人と、12年に比べ約7倍に増えた。
インヴァランス(東京・渋谷)の調査では、20〜39歳で不動産投資に関心のある社会人の女性の半数以上が「老後の生活費のため」、約30%が「子どもの教育費のため」と回答した。
富女子について、コラムニストの辛酸なめ子さん(42)は「年金も男性も頼りにならないので、女性たちの自立心が高まっていったのでしょう」と語る。
先行きが不透明な時代。結婚しても就職しても若い女性たちの不安を払拭する確かなものは、今の社会ではなかなか見当たらないようだ。ある富女子はつぶやいた。「どこまでためてもゴールはないのかもしれない」■「コト」への消費は惜しまず
強い意志をもってお金をためている富女子だが、「コト」にはあまりお金を惜しまない。
富女子の渡辺さんは数十万円を払い、ビジネスセミナーや薬膳料理教室などに通っている。「将来の選択肢を広げるため」。自己投資こそが、利回りが最も高い投資と考えている。1000万円ためた別の女性(29)は2、3カ月に1度は歌舞伎や相撲、寸劇などを1万円ほどする席で鑑賞する。「モノをたくさん持ってもおもしろい人になれそうもない。こうした経験は自分の財産になる」と思うからだ。
ベルメゾン生活スタイル研究所によると、30代女性で日常生活の充実よりも貯蓄などして将来に備えたいという人の割合は2016年に6割を超えて、15年より約4ポイント上昇した。富女子ほどストイックではないが、将来への不安から貯蓄へと走る女性は増えている。
富女子は、新語・流行語大賞に昨年ノミネートされた「ミニマリスト」と「不要なモノの購入を控え自分が価値を認めたものにお金を使う」(ミニマリストの佐々木典士さん)という点で似ている。ただ貯蓄という最優先の目標があり、貯蓄を中心に消費のスタイルを決めている。流通業にとって、ミニマリスト以上に手ごわい相手かもしれない。
(小田浩靖)
[日経MJ2016年12月21日付]