藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

最後の選択。

「無葬」とか「直葬」とか「樹木葬」とか。
昔はタブーとも思われたことも次々に合理化の波が押し寄せて。

「人間一人ひとりに対する思いが軽くなったのだと思う。自分の代わりがいくらでもいる。人の価値が減り、死が重くない社会になった」

いろんな記念日も、若い人の価値観から優先されて形を変える。
老後のあり方というのもどちらかというと「周囲ありき」の感があったけれど好きな風に暮らし、好きに往くべきだと思う。
自分の最後は最後の自由だから。

永代供養に求める縁 家族がいても「無葬」|くらし&ハウス|NIKKEI STYLE

 弔いがない「無葬」の時代が近づいている。葬式をして家の墓に入る普通の葬送が都会だけでなく地方でも減りつつある。貧困や孤立だけでなく家族関係の希薄化が影を落としている。葬儀をせずに火葬する「直葬」や一人で逝く「無縁死」が増え、遺骨がさまようことも。そうなる前に、生と死をつなぎ安心して死ねるよう永代供養に縁を求める動きも広がってきた。

 富山県高岡市は釣り鐘や仏具などの銅器づくりが盛んだ。街の象徴は日本三大大仏にも数えられる高岡大仏。そんな仏教になじみ深い町に、日本で初めて無縁の遺骨を宅配便で受け付けて供養する「送骨」サービスを始めた寺がある。

 約700の檀家を持つ古刹の大法寺が敷地内に永代供養する合葬墓を建てたのは2006年。子供が都心に出て墓の継承者がいない単身の檀家から相談を受けたことがきっかけだった。ところが、無縁仏も引き受けたため全国から問い合わせが相次ぎ、身寄りのない遺骨を引き取ってほしいという自治体まで現れた。

 本堂にはゆうパックで届いた遺骨3柱が供養を終えて置かれていた。うち1つは行旅死亡人。行き倒れの人の骨だ。行政の火葬許可証や生前の履歴書が添えられている。

 遺骨からうかがえるのは、家族の絆の弱まりだ。アパートの押し入れから骨つぼが2つ見つかり「引き取ってほしい」という大家からの依頼。仲が悪かった父親の遺骨を「関わりたくない」と息子が放置し引き取ったこともある。

 行き場のない骨の供養を続ける栗原啓允住職(57)は「本当はこんな送骨システムに頼らずに血縁者が弔うべきだ」と言う。その上で「先(ま)ず臨終のことを習うて、後に他事を習うべし」という日蓮上人の言葉を引きながら「死を考えることは、結局生を支えることになる。家族がいるのに孤立する例が増えている。そんな人も弔えるように我々は選択肢を提示している」と話す。

 栗原さんは11年に行政書士らと無縁仏の供養、納骨をする送骨システム(5万円)の対応をするNPO法人「道しるべの会」を立ち上げた。単身高齢者の入院の身元引受人や財産管理など生前の生活から死後の支援まで手掛ける。これまでに届いた遺骨は10の自治体の依頼を含め300を超える。大法寺の手法が模倣され、送骨を受け付ける寺院の一覧表を掲載したインターネットのサイトも登場した。

 現在約130万人の年間死亡者数は39年に167万人のピークを迎え、その後も160万人台が続く。鹿児島県の人口に近い数が毎年亡くなる計算だ。京都市内にある実家の寺の副住職で「無葬社会」の著書もある編集者の鵜飼秀徳さんは「地縁・血縁が希薄になり寺の檀家制度が田舎でも崩壊しつつある。死を丁寧にみとる時代は過去のものになるかもしれない」と警鐘を鳴らす。

 東京都港区の増上寺で2月、多死社会で変わる仏教と葬送について語る講演会があった。鵜飼さんらと登壇した解剖学者の養老孟司さんは、葬送が簡素化している根本的な背景についてこう解説した。「人間一人ひとりに対する思いが軽くなったのだと思う。自分の代わりがいくらでもいる。人の価値が減り、死が重くない社会になった」

 散骨や樹木葬など墓石を持たない永代供養が広がる中、家ではなく個人の思いを大事にした新しい弔いの形として「理想の墓」と呼ばれている寺がある。新潟市角田浜の妙光寺だ。

 宗派を問わず承継者を必要としない永代供養墓を全国に先駆け1989年に建てた。「安穏廟(あんのんびょう)」と呼ぶ古墳型の美しい墓が日本海を望む境内に並ぶ。個人で入る会員制の墓で1区画85万円の納骨室には10体まで、友人でも埋蔵できる。年会費(3500円)が途絶えた後も13年間は個別埋葬を継続し、その後は古墳の中心に移して合同供養を継続する。

 横浜市に住む92歳の双子の妹が会員になり、認知症で独身の姉が東京で亡くなった際に妙光寺まで遺体を運び納骨したこともあった。最近は、過疎が進む佐渡島から妙光寺に改葬する例も増えている。

 小川英爾住職(64)が目指すのは寺を中心とした個人との信頼関係だ。「人間関係が希薄になっても命の継承は大事。寺は教育の場であり地域の悩みを解決する場であるべきだ」と主張する。

■死後の安全網どう築く

 冠婚葬祭総合研究所(東京・港)によると、自分の葬儀は直葬でよいとする団塊の世代は半数を超える。「親の葬式を経験し、子供には負担をかけまいとする人が多い」(編集者の鵜飼さん)という。葬儀やお墓は、子が親を思うのではなく親が子の負担をなくす形に変わってきた。

 葬儀を行ってきた寺院も先行きは厳しい。2040年までに現在の寺院の4割が過疎化や後継者不足で消滅するとの予測もある。

 世界の葬送文化の研究をしている聖徳大学の長江曜子教授は「死への不安を和らげて生きるためにも、安易な葬送の簡素化は避けるべき。家族が担えない場合は、持続可能なリサイクル型の公的墓地など、死後のセーフティーネットを築く時期にきている」と話す。(大久保潤)

日本経済新聞夕刊2017年3月22日付]