藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

意図と現実。

特許に初めて触れた十数年前、その不思議な仕組みに疑問を抱き、また特許法の「産業の発展に資する」という大方針に感動したことを思い出す。

そんな特許の価値観が変わりつつある、という日経の記事より。

ラクルはグーグルを訴え、マイクロソフトモトローラを訴え、ノキアはアップルと論争する

さらに

他社の発明を妨害するために使われるケースが多いと記事は示唆する

さらにgoogleの顧問弁護士は言う。

知財裁判を起こされるのを防ぐために、特許を買い集めないといけない。それだけのカネを研究開発に使えば、よりよいモノが生み出せるのだが…。と。

いくら知財活動を促進しようとしても、そこに経済的な理屈を優先し、競争優位にしてしまうとこうなる。
これまでも幾度も議論になっているが、「稀な病気の治療薬に独占権を与えて開発を促進」した米のオーファンドラック法、のような別の枠組みがIT業界に必要なのではないだろうか。
「防衛のための買収」が閾値を超えてしまっては「そもそもの発展を損なう」という部分では、衆目の意見は一致しているのだから。

スマホをめぐる特許戦争の不毛  編集委員 西條都夫
長らく常識、規範、当たり前とされてきた考え方や価値観が、ある瞬間にあっさり否定され、時代遅れになることがある。特許や、あるいはもっと広く知的財産権全般について、重大な変化が起こりつつあるのではないか。そんなことを示唆する二つの記事を取りあげたい。


関連記事 ・8月5日日経電子版「丸山茂雄氏の経営者ブログ やたら韓国が元気なワケ教えます」
・8月20〜26日号英エコノミスト誌「Patents Inventive Warfare」
・8月28日日経電子版「米IT業界で特許争奪戦 スマホ市場拡大で紛争急増」

まず一つは英エコノミスト誌の「インヴェンティヴ・ウォーフェア」という記事。あえて邦訳すれば「創意工夫に満ちた戦争」。特許を武器にした企業同士の争いを皮肉っているのだ。


取り上げているのは、スマートフォンをめぐる泥沼の訴訟合戦。アップルは韓国・サムスン電子モトローラを訴え、オラクルはグーグルを訴え、マイクロソフトモトローラを訴え、ノキアはアップルと論争する。

特許をはじめとする知的財産権は、もともと発明や創作活動を奨励するために導入された制度だ。だが、現実はどうか。製薬産業のように特許制度なしでは新薬開発が止まってしまう業界もあるが、情報技術(IT)産業においては特許は発明を奨励するというより、他社の発明を妨害するために使われるケースが多いと記事は示唆する。


■グーグルのモトローラ買収、訴訟の抑止効果に狙い


グーグルが125億ドルの巨額を投じて、モトローラ・モビリティを買収するのも、相手の技術力や工場や人材がほしかった訳ではない。モトローラの持つ特許が狙い。しかも、その特許を生かして新しい技術やプロダクトを産むのではなく、単に訴訟の抑止装置として使うだけ。戦略核と同じで、「相手がミサイルを撃ち込めば、こちらも撃ち返せる(反訴する)ぞ」と悟らせるのが目的だ。

記事ではグーグルの顧問弁護士、ケント・ウォーカー氏のこんな言葉を引用している。「グーグルは今年4月だけで8件の訴訟を起こされた。そこで知財裁判を起こされるのを防ぐために、特許を買い集めないといけない。それだけのカネを研究開発に使えば、よりよいモノが生み出せるのだが…」。

これと並ぶもう一つの示唆に富む記事が日経電子版の丸山茂雄氏の経営者ブログだ。「やたら韓国が元気なワケ教えます」という文章で、著作権をそもそもあてにしていないからKポップには勢いがある、という逆説を提示している。丸山さんによると、世界の50億人のうち「著作権は大事ですよ。守りましょう」という優等生は日米欧の10億人程度。

残りは著作権なんて完全無視。そこで韓国の人たちは出し惜しみせずに質の高い映像をユーチューブでもどんどん流し、中国の放送局にも無料でばらまく。そうして人目に触れる機会が増えると、人気が出て、レコードやコンサートのチケットが売れるようになるという。


■特許重視の姿勢、米国からすり込まれた日本

著作権や特許をめぐって、日本企業は80年代、90年代に米国からこってり絞られた苦い経験がある。半導体の基本特許などで巨額の特許料支払いに追い込まれ、レンタルレコード店の存在が洋楽の著作権を侵害していると攻撃された。

政府と産業界が一体となった米国の対日攻勢は強力かつ巧妙。そこには「知的財産権を尊重しない国は後進国」というそこはかとないメッセージも織り込まれた。それ以来、日本企業の脳裏に「プロ・パテント(特許重視)」の考え方がすり込まれた気がするが、現実の世界は一歩先を行く。プロパテントの是非について改めて議論すべき時期かもしれない。