*[次の世代に]それに気づけ!
鴻上尚史さんのインタビューより。
以前も書きましたがもう一回。
65歳の自分が55歳の自分に言ってやりたいこと。
それは「やりたいことをやれ」「健康を気づかえ」「覚悟を決めろ」の三つ。
これが三十代の自分へ、となると微妙に変わる。
「もっと外と交れ」「先進国と途上国へいけ」「落ち着け」の三つ。
つまりは「稼ぐ」とか「モテる」とか「見栄を張る」とかいう目先の欲望をあまり追いかけない方がいいよ、と。
なぜならそんなことをしているうちに、一番大事な「時間」がこぼれ落ちてしまうから。
もっとも充実するはずの三十年間は振り返ればあっという間である、ということは経験者だけが知っている。
流行りに乗ったり、周囲の同調圧力に合わせたりしていると、気がつけば五十代後半になっているのです。
そこから考えたってやれることはまだあるけれど、自分は実は「いかに若いうちに"それ"に気づくか」が一番大事なことだと思うようになった。
若者の就職相談では最近もっぱらこんな話をしている。
世界をつくってくれたもの。鴻上尚史さんの巻
- ──
- いまから振り返って、
若い頃の自分に言いたいことはありますか。
- 鴻上
- ありますよ。
「準備不足で行動するな」です。
- ──
- え(笑)、そんなことがあったんですか。
- 鴻上
- ありました。
29歳ではじめて映画を撮ったときです。
演劇と映画って、
物語をつくるという点で似ていると思われがちだけど、
ぜんぜん違うんですよ。
いまでこそ外部交流で
どんな業界の人もウェルカムな雰囲気がありますが、
当時はほんとうに職人さんの世界で。
- ──
- 映画って、フィルムですよね。
- 鴻上
- そう、35ミリです。
予算も1億円ぐらいかかる。
「やってはいけないぞ」ということに、
ぼくはクランクインしてから気づきました。
- ──
- 聞いていて怖いです。
- 鴻上
- 「次はここからこう撮ります」
なんて言うと、撮影の人が
「監督。レンズ何ミリですか」
って聞くわけ。
「50ミリ? 35ミリ?」
- ──
- 監督用のモニターは、ないんですか?
- 鴻上
- ビジコンね。
当時、アメリカではビジコンがあたりまえだったけど、
日本は経験を積んだ人が監督になるもんだったから
「ビジコンなんて、なんでつけなきゃいけないんだよ」
「ミリ数を聞いただけで
風景がどこからどこまでおさえられるか、
そんなこともわからなくて映画撮れるわけねぇだろ!」
という世界でした。
- ──
- 歯が立たないですね。
- 鴻上
- いろんな意味でダメだなと思った。
これがぼくの、最初の激しい挫折です。
- ──
- だから‥‥
- 鴻上
- 準備不足でやるなと(笑)。
- ──
- でも、そうなのかな。
- 鴻上
- そういうことですよ。
野球を知らないのに
野球の監督をやる人、いないでしょう。
やっちゃいけないです。
いくら「気持ち」とか「思いやり」とか
「ガッツ」とか「強靱な精神」とか言っても、
無理です。
無理なことは無理。
- ──
- そういうとき、どうすればいいんでしょう。
- 鴻上
- 1本でいいから、
自分で自主映画を撮っておけばよかったんです。
15分、短編でいい。
それでずいぶん変わったのにな、と
あとから思いました。
だからいま、ぼくはそうとう
いいプロデューサーになれますよ。
監督できそうなのに経験がない人がいたら、
「15分でも20分でもいいから短編撮れ」
とまず言います。
カメラマンも、ビジコンつけることに
抵抗のない人を選びます。
最近はもうほとんどですが(笑)。
- ──
- 「ちょっとでも慣れてからやる」
というのは、たぶん、
とても大切なアドバイスですね。
- 鴻上
- やっぱり事情がわかんなきゃダメだろ、
ってことですよ。
- ──
- 知らないことによる、
過剰な怖さや緊張もなくなりますし。
- 鴻上
- そのとおりです。
- ──
- いい気になって、いろんなことを端折って
飛び越えることがありますけれども、
ほんとうはそれは楽じゃないですね。
急がば回れ、しんどいけど少しずつ慣れろ、です。
正義だけを語ることも、
悲劇と喜劇をきれいに分けてしまうことも、
もしかしたら、とても楽な行為なのかもしれません。
ついつい、楽をしたくなりますが‥‥。
- 鴻上
- 楽なことって、結局はヤバいことが多いんです。
「あの人は敵なんだよね」と
決めてしまうことが、そもそも安易なんですよ。
敵味方の分類が早すぎる。
- ──
- それもおそらく、
自分が弱っているからですね。
強かったら敵は要らない。
弱らせ合いをしているのかもしれない。
- 鴻上
- そうね、だからまず、
おいしいものを食べてください。
好きなことして、気持ちを強靱なほうへもっていく。
行動や発言するにも、きちんと準備する。
- ──
- 鴻上さんは、お子さんのときから
「あの大音量の放送は変だ」と
思ってらっしゃいました。
私はすでに大人です。
でも、どんな大人でも、いまからでも、
「しんどいけれども考えていこうとすること」は、
遅くないですね。
- 鴻上
- 遅いことはぜんぜんありません。
いくつになっても遅くない。
これはぼくがよく言っていることなのですが、
「自分は10年先から戻ってきたんだ」
というふうに考えましょう。
たとえば自分がいま、50歳だとする。
でもほんとうは60歳なんです。
もし20歳だったら、
じつは30歳になっているんです。
そう思ってください。
- ──
- はい。
- 鴻上
- タイムスリップしたか、
ドラえもんに助けてもらったか、
それはわからない。
10年後のあなたに何かがあって、
「10年前に戻してください」と
強く願ったのです。
だからいま、あなたはここに戻ってきた。
そう考えましょう。
10年後の自分が
いまの自分に託したものは
いったい何だったのか。
きっとまだやれることがあるはず、と思ったから
自分をいまこの時点に戻したんでしょうね。
- ──
- おおお。
- 鴻上
- いまは10年前に戻ってるんだと思えば、
「やるか」という気持ちになりますよ。
- ──
- そうですね。
未来の自分が何かに悔やんで
戻してくれたんだと思えば。
- 鴻上
- そうです。
10年後の自分に、
頼りにされる自分でいるためにね。
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