藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

持つことからの解放。


物を所有したいという物欲と、さらに所有し続けたいという収集癖。
何かしら統一したテーマでどんどん数を増やして集めて、それに囲まれた世界にいると人はある種の満足感を感じるのだろう。

自分も若い頃には何かしら集めては周囲を飾ったものだけれど、ある日それは「かなり暑苦しいこと」だと気付いた。

場所も時間もかかるのだ。
どこか人との付き合いに似ていると思った。
付き合う人とか、所有する物との"一定の距離"。
所有にせよ人付き合いにせよ、それが発生するとその一定の距離を「保持」する必要がある。

人との付き合いも、物の所有も互いに「一定のアイデンティティをシェアすること」なのだと思う。

楽しいこともあるけれど負担もある。

知り合いに十数台の車やボートなどを所有し、まるでそれらのメンテナンスのために余暇を使っている人物がいるけれど、それが楽しく充実しているならいい。
また別の知り合いに、何人もの女性と同時に付き合って充実感を感じている人もいる。

そう言えばマンションを何十頭も所有し、日々その管理に勤しんでいる人もいるし、
株式を大量に保有して、日々その値動きと入れ替えに忙しい人だっている。

所有は犠牲を伴う。

流行りの断捨離は、そういう「持つことからの解放」という概念が新しく受け入れられているということなのだと思う。
なんでも所有したくなって溜め込んで見たものの、ハタと気づけば必要なものは一握りでしかない。
「所有しないことの清々しさ」に気づけば日々の生活もずいぶん軽いものになるだろう。
まあ物欲の程度って、大体は年と共に薄れていくようだけれど。

「片付けの魔法」にかかった米国人 大モテ、こんまり
米州総局 河内真帆
2016/2/12 6:30
日本経済新聞 電子版
ニューヨーク市で開催されたこんまり講演会には多くの米国人女性が押しかけた。終了後の新刊翻訳著書のサイン会にも長蛇の列
ニューヨーク市で開催されたこんまり講演会には多くの米国人女性が押しかけた。終了後の新刊翻訳著書のサイン会にも長蛇の列

 片付けコンサルタントの「こんまり」こと近藤麻理恵さん(31)が米国でも爆発的ブームになっている。2014年10月に米国で翻訳出版された「人生がときめく片づけの魔法」が書籍としては160万部、電子書籍では20万部販売。1月14日付USAトゥデー紙では発売後60週で同紙のベストセラー番付で初めて首位に立った。ニューヨーク市立図書館本館には208冊が所蔵されるが、1月21日にはすべて貸し出し中で、実に485人待ちの状態だ。1月に翻訳出版した2冊目の翻訳本も既に30万部が売れている。

■大騒ぎの会場

 1月21日にニューヨーク市文化交流団体のジャパン・ソサエティーが開催した近藤さんの講演会。チケットは260席が数週間前に売り切れとなり、当日は立ち見が出るほどの盛況ぶりだった。聴衆の半数が米国人で、その大半が女性。身長147センチと小柄な近藤さんが壇上で物と心がスパークする「ときめき」感を表す「きゅ〜ん」ポーズをとると、会場からは「かわいい」とため息がもれる。衣服を整理する実演では、たたみ終えたジーンズが机の上に立つと大きな拍手が。「4歳の子供が家を散らかして片付かない」「思い出のある品物ばかりで捨てられない」……。質疑応答では万国共通ともいえる質問が相次いだ。

11歳、6歳の米国人男児もはまった「片付け祭り」
11歳、6歳の米国人男児もはまった「片付け祭り」

■大人も子供も「片付け祭り」

 ニュージャージー州に住む竹永弘之さん(49)は、地元私立校の図書館司書として勤務する米国人の妻(47)が司書仲間から「こんまり」人気を聞きつけたという。11歳と6歳の息子たちに近藤さん出演のテレビ番組を動画配信で見せると、衣服の畳み方を見たとたんに突然、自分たちの部屋に駆け込んで片付けを始めた。衣料品が瞬間的に折り紙のように整頓できる面白さが視覚的に伝わったようだ。「1週間たった今もまだ部屋も洋服ダンスの中もきれい。衣料品が見つけやすくなり学校に着ていく服のバラエティーが増えた」と竹永さんは苦笑する。

 ニューヨーク市に住む大学生のスグラ・カマールさん(21)は、こんまりメソッドのファンが集まるフェイスブック・ページ(会員制)に登録する一人。下宿するアパートの中からすでに紙袋30袋分の衣料を寄付し、段ボール箱15箱分の書籍・書類を処分した。現在、片付けの半分までたどり着いたが、「一挙に片付けを済ませるこの方法なら自分にもやり遂げられそうだ」と話す。

■貸倉庫頼りの米国式片付け法

 大量購入・大量消費で成長してきた米国で、最も安易な片付け方法は倉庫を月決めで借りて物を預ける「セルフストレージ」と呼ばれる個人向けの貸倉庫の利用だ。スペースの平均的な大きさは縦横高さが各3メートルで、使用料金は年間1000ドル前後。米国の貸倉庫業の業界団体の14年調査によると、全世界に貸倉庫施設が6万件あると推定され、このうち4万8500件が米国に集中する。広さにしてニューヨークの中心街マンハッタンの3倍以上に相当するスペースが物置として使用されていることになる。

ニューヨーク市内の講演会場はこんまりメソッドにはまった人で満席となった。(1月21日ジャパン・ソサエティーで)=Japan Society @ Daphne Youree
ニューヨーク市内の講演会場はこんまりメソッドにはまった人で満席となった。(1月21日ジャパン・ソサエティーで)=Japan Society @ Daphne Youree

 不要な物を大量にため込むことへの反省機運が出てきた背景には、人口動態の変化があげられる。「長らく消費行動を主導してきたベビーブーマー世代(1946〜59年までに生まれ、これまで最も人口数が多かった)が老年期に入り、身の回りのものを片付けて物を減らす傾向にある。一方、人口数でベビーブーマーを超え、本来なら消費主導層にあるミレニアル世代(1980〜2000年ごろに生まれたベビーブーマーの子供たち世代)は物質購買より、旅行など“経験”に支出する特徴がある」(コンサルティング大手ベインのパートナー、アーロン・チェリス氏)

 近藤さんの本の米国での編集を手掛けた翻訳出版社テン・スピード・プレスのリサ・ウエストモアランドさんは、提案書を手にした13年に「これは絶対にヒットする」と確信したという。「箸置きの片付けに困ったというような米国にはない変わったエピソードに興味をそそられたのと同時に、マリエの声は『狭いアパートにあふれかえった物を整頓したい』という万国共通の悩みに独特の回答を与えた」と言う。同社は3作目についても交渉をしており、「シリーズはぜひ続けたい」と話す。英語の中で「こんまりする」(“片付け”の動詞形)という言葉が使われ始めたのも偶然ではなさそうだ。

米国でも片付けに頭を悩ませる人は多い。片付けコンサル業は繁盛中だ(ニューヨーク市内の個人顧客宅で片付け実施中のアマンダ・サリバンさん)
米国でも片付けに頭を悩ませる人は多い。片付けコンサル業は繁盛中だ(ニューヨーク市内の個人顧客宅で片付け実施中のアマンダ・サリバンさん)

■業界の「ロックスター」

 実は米国にも片付けコンサル業は昔から存在する。アマンダ・サリバンさん(50)は1992年から「片付けコンサルタント」として法人、個人相手に顧客を見てきた。近藤さんについて「彼女は業界の“ロックスター”だ」と指摘し、「品物別に一挙に整理する、という方法がエキセントリックで人々に受け入れられた」と分析する。物質過剰の時代からミニマリスティック(最小限主義)に振り子が揺れた時流に合致して、一時的な魔法がかかったのか。それとも、米国人のライフスタイルの根本的変化を引き起こしたか。海を越えた「こんまりメソッド」とは何なのか――まだ答えは出ていない。