藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

未来カルテ。

*[次の世代に]政策よりも大事なもの。
バックキャスティング、と言われる「20〜30年後の未来人の視点から現代を振り返る」方法が始まっているという。
なるほど、そりゃそうだ。
今の立場や「自分のこの先」だけを考える大人たちばかりでは、長期的な策など望めない。
そんなジジイたちに任せるよりは、若くても「30年後に当事者になる人たち」に真剣に考えてもらう方がよほどいい。
バックキャスティングならぬ「当事者キャスティング」だ。
自分だって50年後の話を聞くと「オレ、もういないもんなぁ」と思ってしまう。
 
「日本の人口は減り続けるんだよ」なんて年寄りが言うのではなく、年寄りは知恵を出し、若者にはいろんなことを発想してもらうのがいいだろう。
 
それにしても、今の所よほどの新制度でもないと日本の人口は減り続けるらしい。
いわゆる「縮み」の時代になるようだ。
企業でもスタートアップの苦しみよりも「縮むとき」の経営の方がより難しいという。
まさに日本のこれからだ。
一番大事なのは「医療とか、介護とか、厚労省とか財務省とか、規制とか法律とか」の各界の人間が自分のことばかりを主張するポジショントーク」を止めることではないだろうか。
今の世界で起きている問題って全部この縮図に思えて仕方ない。
みんなが自分の立場からしか話さないのでは、そもそもまとまるはずがない。
若い人にはまずそこから説明しておきたいと思う。
 
 
未来から逆算し政策提案 SDGsにらみ導入機運
2019年5月19日 19:30
20~30年後の未来人の視点から現代を振り返り、持続可能な政策を提案する手法が注目されている。「バックキャスティング」と呼ばれ、再生可能エネルギーの導入やインフラ改修の計画づくりなどで実践例が出始めた。国連の持続可能な開発目標(SDGs)が自治体の政策目標になりつつあるなか、達成に向けた有力な手法になりそうだ。
中高生が「未来市長」になり政策を提案した(鹿児島県西之表市でのワークショップ)=千葉大・倉阪秀史教授提供
鹿児島県種子島の北部にある西之表市で、中高生が「未来市長」になって政策を提案する試みが始まった。千葉大学社会科学研究院の倉阪秀史教授らが企画した「にしのおもて未来ワークショップ」だ。
2018年8月、中学生15人、高校生22人が参加してワークショップを開催。生徒たちはまず25年後の市の状況について説明を受けた。市の人口は現在、約1万6千人だが、45年には約9千人に減少。産業規模の縮小やインフラ維持費の増大などが見込まれる。
これを受け、中高生に取り組むべき政策を提言してもらった。生徒からは「特産のサトウキビでバイオマス産業を振興する」「ロケット射場のある種子島知名度を生かし、地元高校に宇宙開発コースを設ける」といった提案が相次ぎ、八板俊輔市長に報告した。
将来予測は倉阪教授らが考案した「未来カルテ」に基づく。未来カルテは国勢調査や人口予測などの統計データを使い、いまの傾向が継続したとして将来の推移を予測する。産業構造や教育・医療・介護、公共施設・道路・農地の維持管理など10項目の状況をシミュレーションできる。
17年からは科学技術振興機構のホームページでプログラムを無料提供。西之表市に似た取り組みが千葉県市原市八千代市静岡県などでも広がり始めた。倉阪教授は「中高生が地域に強い関心をもつようになり、主体的な政策づくりが進む」と手応えを話す。
老若を問わず住民に「将来世代」になりきってもらう手法もある。西條辰義・高知工科大教授(総合地球環境学研究所特任教授)が提唱する「フューチャーデザイン」という方法だ。「仮想将来世代」は公募などで選び、現世代と討論して政策を立案する。
岩手県矢巾町が将来ビジョンづくりで採用したほか、大阪府吹田市などが再生エネを軸とした環境政策づくりに利用している。
国連が掲げるSDGsには安全な水やエネルギーの確保、生態系の維持など地域にかかわる項目が多い。SDGsに沿って政策をつくる自治体が増えるなか、バックキャスティングの活用も広がりそうだ。
編集委員 久保田啓介)
日経産業新聞2019年5月17日付]

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*[次の世代に]本題に入る時
英国の離脱が揺れている。
というか「移民受け入れは嫌」「関税はそのままナシで」「NATOはどうする」など論点の整理が進まぬまま、迷走しているように見える。
「今が嫌。だが代わりはいない」というのは日本と似ている国民のメンタリティではないだろうか。
それにしても一対一のカップルでさえ長期の関係の維持は難しいのに、1951年以来、よくぞ70年近くも共同体を続けてきたものだと思う。
試みとしては偉大な業績だったと言えるのではないだろうか。
それにしても根っこにある「貧困の問題」はEU諸国の知恵をもってしてもやはり解決は難しいらしい。

 「国」という単位で互いにものを言う限り「あちらとこちらの溝」は埋まらないようだ。

英国の離脱がどうなるかはともかく、「貧困」と「格差」をどう乗り越えるのか、が次のノーベル賞のテーマではないだろうか。
次の統治方式が編み出されれば、いよいよ人類初の"世界平和"が発明されるような気がする。
 
 
英、今夏のEU離脱困難に 与野党協議決裂で
2019/5/20 18:55 (2019/5/20 21:25更新)
 【ロンドン=篠崎健太】英国の欧州連合(EU)からの離脱を巡る英与野党協議が決裂し、メイ英首相が描いてきた2019年夏までの離脱は難しい情勢になった。延期された離脱期限は10月末だが、メイ氏はこれより早い時期の離脱を模索してきた。23日に投票が始まる欧州議会選でメイ氏を支える英与党・保守党が大きく議席を減らせばメイ氏への退陣圧力が一段と強まりそうだ。
メイ英首相は6月上旬に退任時期を表明する(17日、英南部ブリストル)=AP
 最大野党・労働党は17日に協議の打ち切りを与党側に通告した。19日の英BBC番組で労働党のコービン党首は「私たちは関連法案に反対する」と述べた。メイ氏は6月に離脱関連法案を再び、英下院に提出する予定だが、これに労働党が反対する姿勢を明確にした。
 メイ氏は19日付の英紙サンデー・タイムズへの寄稿で「議会の支持を得るため、手を加えた離脱関連法案を議員に示す」と指摘した。これまでの英議会での審議や与野党協議を経て浮かび上がった課題を考慮し、離脱関連法案を修正するもようだ。メイ氏は寄稿で「大胆な提案」を今週の閣議で協議すると明かしており、同法案の手直しに関する内容だとみられる。
 バークレイEU離脱相は19日の英スカイニューズで、6月に議会で離脱関連法案が承認されなければ「合意なき離脱への準備を進める必要がある」と語った。メイ氏は与野党協議の決裂を受けた17日、欧州議会選の選挙運動中に「議会は再国民投票か、EU離脱を実現するか、それともEU離脱の回避かの選択を迫られる」と述べていた。
 過去3回の採決でメイ氏の離脱案に反対した閣外与党の民主統一党DUP)も「過去の案と変わらないのなら賛成しない」との立場だ。
 英国とEUは4月、英国のEUからの離脱期限を10月末まで再延期することで合意した。しかし、メイ氏は7、8月にも離脱する方向で調整を進めてきた。離脱には離脱関連法案が英下院で承認される必要がある。メイ政権は6月上旬、関連法案を提出する方針だ。メイ氏は労働党の協力で下院過半数を確保しようとしたが、同党が協議の打ち切りを申し出た。
 メイ氏の求心力は低下している。16日には保守党の重鎮らと会談し、6月上旬に辞任時期を表明することで合意した。当面の焦点は、欧州議会選で保守党がどれだけの勢力を確保できるかだ。
 英調査会社ユーガブが有権者に投票先を聞いた最新の世論調査(12~16日実施)では、早期のEU離脱を訴える新党のブレグジット党が35%と突出した。保守党は9%で5位だった。ブレグジット党の関係者は日本経済新聞に「保守党支持者にも私たちの党を支援する人は多い」と主張した。
 保守党は2日投票の英統一地方選イングランドなどの地方議会で議席のほぼ3分の1を失い、歴史的大敗を喫した。この際は、EU離脱を進められないメイ氏を批判する有権者が保守党を離れたとの分析が目立った。
 党勢回復を目指す保守党内ではメイ氏を早期に退陣させ、強硬離脱派の首相を立てるべきだとの意見がある。党首選が開催される場合、強硬離脱派の筆頭格であるジョンソン前外相がすでに出馬する意向を示した。
 

 

自分の土俵。

*[次の世代に]これからの競技。
ほぼ日より。
まず自分を見ること。
「じぶんがこうなったらダメ」ということについて、
冷たいくらいに見てきたつもりです。
時代をリードしていた糸井さんですらこの厳しさ。
いやだからリーダーだったのか…
ともかくこれを自分で意識していないと、レフェリーから「退場」を告げられる。
左遷とかリストラとか倒産とか。
まあ悲劇である。
 
だから自分が「使えているかどうか」は自分で見ておかないととても怖い。
しかも周囲より「厳しめ」にしておかないとだ。
「オレはあんまり役に立っていないのじゃないのか?」と常に自問することになるが、そのくらいで丁度いい。
さらに。
これまで、(糸井さんが)なんとかなってきたのは、
競技種目を変えてきているからだと思っています。
どういう競技の、どういう試合ならやれるのか。
いままでの経験や考えてきたことを生かして、
別の役割をしてきたのです、無意識でしたけどね。
糸井重里ですら、単一の土俵にいたら後進に抜かれる。(のかもしれない)
柔よく剛を制す、ではないが「競技種目を変える」という意識をあらかじめに持っていれば戦い方もずい分変わってくるはずだ。
転職の笑い話で「何ができますか?」「ハイ、部長ができます」というのがあるが、競技の分野を広げるとか、異種目と組み合わせるとかいうことを考えると道が開けると思う。
 
それが「なんとかやっていく」方法でもある。
 

・思えば、今年9月14日で70歳になる男と、

今年の11月までは70歳の男との対談なのでありました。
内容については、またあらためて連載でお伝えしますが、
元気でおもしろい時間だったなぁと思っています。
たぶん、「ほぼ日」の乗組員たちも、
「ええっ、こういう人だったのか」と、
すっかり好きになっちゃったんじゃないかな。
ええ、矢沢永吉さん、ひさびさの「ほぼ日」登場です。
今回は、場所も「ほぼ日」だったので、
社内の仕事の手を止めて、みんなが同席したのでした。
「ほぼ日」の21周年企画、まぁ、とにかくおたのしみに。
 
ちょうど、昨日は、ボクシングの井上尚弥選手の
怪物と呼ばれるとんでもない強さを目にして、
「こんな人でも最強でいられない日がくる」と、
深い切なさのようなものを感じてしまったのですが。
翌日に、上原浩治投手の引退会見でした。
怖いものなしにも思える時代があって、
力を上手にコントロールして強さと賢さを
かけ算して勝っていく時代があって、
通用しなくなっているということを知り、退く。
ほとんどのスポーツ選手が、こんな道を歩みます。
 
「じゃぁ、おまえはどうなんだ?」と、
しょっちゅう問われているような気がしています。
ぼくは、そういうことを
考えすぎるタイプなのかもしれませんが、
けっこう若い時分40歳代くらいから、
「じぶんがこうなったらダメ」ということについて、
冷たいくらいに見てきたつもりです。
これまで、なんとかなってきたのは、
競技種目を変えてきているからだと思っています。
どういう競技の、どういう試合ならやれるのか。
いままでの経験や考えてきたことを生かして、
別の役割をしてきたのです、無意識でしたけどね。
 
そんなこんなの話題も含めて、
笑いながら、みんなを笑わせながら、
ときには真剣に、矢沢永吉は相手をしてくれました。
70のおやじ同士の話が、さて、どう伝わるのかな。
 
今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
そうなんですよ、創刊21周年の日が近づいているんです。
 
 

 

世界で暮らす時代。

*[暮らす場所]そこがふるさと。
定額制(subscription)で国内や海外に自由に住めるサービスが登場しているという。
民泊解禁、くらいまでは想像がついたが「世界中に住もう」と言われると驚くとともにちょっと憧れる。
自分はあまり観光旅行は好きではないが、「その街で暮らす」となるとちょっと違う。
まるで放浪するように三ヶ月づつ、いろんな都市に住んでみれば贅沢な海外旅行よりもよほど楽しいのではないだろうか。
"観光"と"暮らす"ではまるで違う感じがする。
スペインやオーストリアの田舎町やインドや中国やアフリカとかで、しばらく暮らす。
まさに体験型の楽しみだ。
アメリカの東西南北に三ヶ月づつ住んだらどうか。
中国の内陸だって面白いに違いない。
東欧やロシアだって住んでみたい。
友人はカナダの暮らしが忘れられないと言ってたなぁ。とか。
 
南極に三ヶ月住んだら少しは人生観も変わるのじゃないだろうか。
そんな風に考えるだけで想像が膨らんで、とても楽しい。
 
「サブスク」住宅で国内外に滞在 新興企業が提供
2019年5月14日 19:30
定額制(サブスクリプション)事業を手掛けるスタートアップ企業のKabuK Style(カブクスタイル、長崎市)は国内51カ所と海外7カ所の住居に自由に住めるサービスを4月に始めた。一カ所に定住することも世界各地を渡り歩くことも可能。外国人留学生やフリーランスで働く人など、幅広い層の需要を見込んでいる。
国内と世界の拠点にどこでも定額で住み放題となる
サービス名は「HafH(ハフ)」。利用者は専用のサイトで会員登録し、利用期間に応じてプランを選択する。
月額8万2000円で30日間住めるプランのほか、月額1万6000円で5日間だけ利用するなど短期間のプランも用意している。宿泊したい施設と日程を選んで予約が完了する。

ベトナムや台湾、ケニアなどに滞在

国内51カ所の宿泊施設に加えてベトナムや台湾、ギリシャケニアなどの施設とも提携し、客室をハフのサービスとして提供する。
家具などは備え付けられており、買う必要はない。光熱費やWi-Fiの料金なども月額料金に含んでいる。
通常の賃貸住宅と違って契約時に敷金や礼金が不要なため、定住のほか旅行や出張などでの利用も見込む。宿泊施設にはカフェや交流スペースも設け、希望する利用者同士が関係を深めやすいようにしている。
宿泊施設は多様で、徳島県美馬市の「ADLIV」は印刷工場を宿泊施設に改修した。大分県竹田市の「たけた駅前ホステルcue」は城下町である竹田の築80年を超える古民家を利用している。フィリピン・ドゥマゲテの「Lafusion Garden&Resort」は語学学校を併設する。「拠点ごとに違った宿泊体験ができるのもハフの魅力だ」と同社は説明している。
同社の砂田憲治共同代表は「ハフの住居では、多様な価値観を許容するという価値観を利用者に共有してもらう」と話す。国籍や人種などに関係なく、誰でも自然に溶け込める環境づくりに力を入れているという。

利用者同士の交流に期待

ハフは「世界を旅して働こう」がキャッチフレーズで、施設にはコワーキングスペースや会議室なども設けている。長崎県にある自社運営の1号店では、屋上やテント内で打ち合わせができるという。BGMに自然の音を取り入れるなど「旅して働く」雰囲気づくりに力を入れている。
「多くの人はパソコンがあればどこでも仕事ができる。普段と違う場所で働くと仕事の効率が上がったり、新しいアイデアが生まれたりする」(大瀬良亮共同代表)。ハフの施設を拠点に、各地を旅しながら仕事をするスタイルも想定している。施設での利用者同士の出会いが新たなビジネス創出につながることも期待しているという。
オフィス以外の場所で働きたいという需要も満たす
KabuKは2018年2月に創業した。「10年ほど前から、シェアリングの形で粋な住まいをつくりたいという考えがあった。構想を温め続け、世の中に受け入れられるタイミングを待っていた」。砂田共同代表はサービス開始までの経緯を、こう話す。
サービス名は利用者にとって滞在先が「第2のふるさと」になる願いを込めて「Home away from Home」の頭文字を取って「HafH(ハフ)」と名付けた。
砂田共同代表は外資系の投資銀行に勤めた経験があり、大瀬良共同代表は大手広告会社でマーケティングやPRを担当してきた。2人は起業前から交流があり、金融とマーケティングの知見を経営に生かしている。
ハフのサービス開始に向けて18年11月にサイバーエージェント系のクラウドファンディングサイト「マクアケ」を通じて資金を募ると、3日間で目標額を上回る500万円以上を調達した。サービスへの周囲の期待は大きいようだ。

イベントも開催へ

「今年は勝負の年になる」と砂田共同代表は意気込む。国内外の拠点を増やすことに加え、利用者がハフの施設に住みたくなるように地域と連携したイベントも開催する計画だ。様々なテーマを設定して施設にゲストを招き、一定期間そこに住んでもらって利用者と交流するような内容を想定している。
砂田共同代表は「家を決めて定住するのはこれまで当たり前だった考え方だが、近い将来には定住せず、住居もシェアすることが普通になっていく」と予想する。
実際にシェアハウスやシェアオフィスの利用は一般的になり、家を持たずに転々としながら生活する「アドレスホッパー」の存在も徐々に知られるようになってきた。
今後はKabuKと同じようにサブスクで住居を提供する企業も出てくるだろう。それでも同社は住居と旅、仕事の3要素を掛け合わせたスタイルで独自性を発揮し、サービスを拡大していく構えだ。
(企業報道部 北戸明良)
日経産業新聞2019年5月13日付]

これからの政治。

*[次の世代に]次の時代に。
中国が今やろうとしていることは、そんな「これまで」への挑戦に見える。
他の先進国では、ポピュリズムとか新自由主義とかが問題になっている。
「試練と苦難の5000年の後で、中国人が経験したことのない種類の戦いなどあろうか」
と問われて「そうだ!」と同調できる中国人が果たしてどれだけいるのだろう。
多分そういう人たちが過半数を割ってしまった時点で中国にも本当の民主化が起こるに違いない。
そしてその先は自分たちと同じ「何がポピュリズムなのか?」という魔境に入るだろう。
その自分たちは全くもって政策の方向性を定められずにいる。
これから栄える国づくりは、まだ示されていないようだ。
それを考えるのがこれからの自分たちの仕事なのに違いない。
 
 
対米強硬論で愛国心あおる中国メディア
2019年5月15日 3:24
中国製品に対する制裁関税を引き上げた米国に対し、中国の国営メディアが愛国論の集中砲火で応戦している。長引く米国との戦いで国内の支持を高めるためだと専門家は指摘する。
専門家は、米中対立が長引くなかで、中国政府が国内の支持を集めようとしているとみている=ロイター
ワシントンでの米中協議が合意をみないまま終了し、世界の2大経済国の激しい貿易摩擦が先週末にさらに高まったことを受けて、人民元は13日、2018年8月以来最悪の1日の下げ幅を記録した。
米国は10日、中国が米中協議の合意事項を「反故(ほご)にした」として、2000億ドル(約22兆円)分の中国製品に対する制裁関税を10%から25%に引き上げた。トランプ米大統領は、協議に打開策が見つからなければさらに3000億ドル分の中国製品に25%の関税を課すよう、米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表に指示した。
これに対し中国は13日、トランプ氏の警告に反して、液化天然ガスLNG)から歯磨き粉まで多様な品目を含む600億ドル分の米国製品への制裁関税引き上げで応酬。米株式市場に1月以来最大の下落を引き起こした。
中国の関税引き上げの発表には、政府の臨戦態勢を強調する中国国営メディアの報道攻勢が伴い、中国のSNS(交流サイト)上で愛国熱をあおり立てた。
中国国営中央テレビ(CCTV)が13日夜のニュース番組で放映した激しい論調の報道は、中国最大のSNS「微博(ウェイボ)」を通じて広まり、このハッシュタグの動画の視聴回数は翌日までに30億回を超えた。
「試練と苦難の5000年の後で、中国人が経験したことのない種類の戦いなどあろうか」とニュースキャスターの康輝氏は言った。「米国が始めた中国に対する貿易戦争は、中国の発展において大きな団結をもたらす岐路にすぎない。何も心配することはない。中国は断固たる姿勢を取り、自信を持って苦難を乗り越えなければならない」
微博の愛国的な利用者は、CCTVの動画に対する支持の表明に殺到した。微博は政府の厳しい検閲下に置かれ、政治宣伝の指示に従ってコンテンツの選別もしている
「鳥肌が立った」と、ある利用者は投稿した。別の利用者は「これこそ偉大な国の振る舞いだ」と書いた。
中国共産党機関紙の人民日報のトレンディングトピックには、「協議、上等だ! 戦いは最後まで! 我々をだまそうとするなら、それは間違いだ!」と投稿された。
北京を拠点に活動する政治アナリストで共産党の出版物の元編集長だった鄧聿文氏は、国営メディアの報道は力を誇示し、中国経済に対する実業界の不安を鎮めようとする試みだと話す。
「国営メディアは間違いなく庶民の愛国心に火をつけようとしているが、同時に中間層の不安にも的を合わせようとしている」と鄧氏は言う。「多くの人が長引く貿易戦争に悲観的になっている。政府は完全に備えができていることを示して、ムードを上向かせようとしている」
中国指導部はしばしば、国際性を強める中間層と強硬な国粋主義者の間に道筋を取ろうとする。国粋主義者は今も西側、特に米国は中国を封じ込めて台頭を阻もうとしていると捉えている。
中国外務省の当局者は貿易摩擦について「自制」や「敬意」を呼びかける一方で、軍のタカ派や過激な保守派の集団とも渡り合わなければならない。その多くは毛沢東時代の西側敵視政策に感化されている。
中国共産党系の環球時報編集長で、過激な発言で人気を集める胡錫進氏は「米国は一撃で中国を圧倒することに賭けていた。中米貿易戦争が消耗戦になりうることを認識していなかった」と微博に投稿した。
By Christian Shepherd
(2019年5月15日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/
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イノベーションの方法(3)

日経産業より。
ネスレの高岡社長と早稲田の入山教授の対談から。
*[次の世代に]革命は自分で起こす
1人ダイバーシティと言いますが、多様な経験を積むことです。米GEなどは極端で「島流し」のような人事もする。新興国で新規事業立ち上げをやったかと思えば、次は先進国のつぶれそうな子会社の再建を任される。多様な知を経験するから、革新的なことを起こせる。大体GAFAなど時価総額上位の会社の多くはこの30年内にできた会社で、ほとんど変人がつくっている(笑)。一方、日本は変人をつくる教育をしていない。

 一人ダイバーシティ

いい言葉だ。
異業の人と交わるのもいいが、まず自分の中で熱中できるテーマを三つは探したい。
これだってバランスだが「営業と製造と経理」なんかでもいいし「生化学と世界地理と政治」なんかでもいい。
「宗教と教育と経済」「音楽とスポーツと映画」とか。
専門性の追求もいいが、特に一つの会社で上流から風下まで一通り経験すると理解が深まる。
そうしておいて異業の人たちと話をすると面白いことが多い。
自分は最近飲食店のオーナーとよく話すが、実に多様な工夫と悩みがあることに驚かされる。
経営は千差万別で「人は誰一人として同じものはない。」とは有名カウンセラーのの残した言葉である。

イノベーションの方法(2)

*[次の世代に]経営者の問題。
日経産業より。
ネスレの高岡社長と早稲田の入山教授の対談から。
高岡氏 (戦後は)人口増でマーケットが増え、勤勉な労働者が安い賃金でいい品質のものを作った。これが現実です。
成長するから誰でも経営できた。順送りでトップに就けるように社長の任期も短くなり、短い分、会長、相談役ができて、長く皆で恩恵にあずかれるようになった。全部ひっくるめて日本株式会社モデル。これをまず理解しないと。

 確かに高度成長期の日本を一言で言ってしまうとこうなる。

日本的経営とか、品質とか言うが結構「後付けの理論」でいってしまえばあまり練られた仕組みとは言えない。

「日本は社員がモーレツに働いてきたから成長してきたのであって、経営手腕によるものではない。」「だから今の働き方改革も、僕に言わせればやればやるほど国力がそがれるだろうな、と。残業削減を目的化している会社がほとんどでしょ。減らして勝てる戦略があればいいが、それもない。だから働き方改革というより経営改革をしないといけないんです。」
衰退の原因というか、どうにも「この先暗そうじゃない?」と考える原因はこれか。
「製造の工夫」とか「品質の確保」とか「業務の改善」はしてきたけれど、経営の工夫がない。
なるほどです。
確かにいろいろな製品を細かく区分けして「さてどれからやります?」みたいなメーカーは多い。
サービスでも画期的なビジネスモデルや技術が日本から出ないのは「経営の工夫」がないからだ、と思うとため息が出る。
企業が有価証券報告書で公表している戦略や、業績発表会の時に社長が説明する経営戦略をそういう目で見てください。残念ながら99%はバツでしょう。この会社にしかできない、他社には容易にまねできないというものがほとんどない。
(つづく)

イノベーションの方法(1)

*[次の世代に]昭和と平成の俯瞰
日経産業より。
こうした関連紙の記事を読めるのは電子版の恩恵だ。
ネスレの高岡社長と早稲田の入山教授の対談より。
――銀行が株主になったことが原因だと。
高岡氏 そうです。銀行は最初は出資先の会社が小さいから、配当より長い目で育てようとする。
そこに、日本的な株主総会が生まれた。
大株主が銀行で、配当より成長を最優先するから厳しく追及しない。
成長資金も足りないからさらに金を貸す。
これで全ての産業で利益率が低くても容認する土壌ができ、総会も「異議なし」のしゃんしゃん総会になった。
自分は思う。
確かにこうした「日本性」はグローバルな視点からは批判的だが、本当にこれが悪いことなのだろうかと。
欧米の会計や価値基準に則った「効率経営」は本当に正しいのか、なんてことをよく考える。
日本の「もたれ合い」は確かに辟易する部分もあるけれど、どうもどちらも極論のような気がしてしようがない。
なんでも欧米基準に盲従せずに、本当の日本型経営を今一度考えてみてはどうだろうか。
働き方改革とか、雇用の正規・非正規とか、どうも議論の中心がずれている気がするのだ。
「刹那と長期のバランス」とはつくづく難しいが、どうにもオリジナル性がないと思う。
ふう。
(つづく)
 
 
記事引用(長文です)
働き方改革より経営改革を ネスレ高岡氏×早大入山氏
2019年5月12日 19:30
「令和」時代が幕を開けた。今後われわれの働き方や組織、会社のあり方はどう変わっていくのか。新時代に求められるリーダーの資質とは何か。ネスレ日本の高岡浩三社長と、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授に紙上対談してもらった。(聞き手は日経産業新聞編集長 宮東治彦)
――令和時代が始まりました。今後われわれの働き方や会社のあり方はどう変わっていくのでしょう。
早稲田大学 入山章栄教授
いりやま・あきえ 1998年に三菱総合研究所に入社し、自動車、政府機関への調査・コンサル業務を担当。2008年に米ピッツバーグ大経営大学院の博士号取得。13年に早大ビジネススクール准教授。19年から現職。46歳
入山氏 僕はいい時代になると思いますね。働き方が自由になるのは間違いない。まず副業、兼業は常識になる。転職も増える。自分のやりたい仕事をその時々で選ぶようになる。
平成は昭和時代を引きずった新卒一括採用・終身雇用が残った。これはもうすぐ崩壊するでしょうが、それは社会がイノベーションを求めているから。これからは変化が激しく、先が読めない。新しい発想を生むには、異なる知を持った人と人が組み合わさるのが何より重要だが、新卒一括採用・終身雇用は最もイノベーションに向いていない。
高岡氏 ネスレ働き方改革が日本で目立っているとすれば、それは日本全体が遅れているから。正直、平成時代は失われた30年だと言わざるを得ない。日本企業の問題は根深いんです。
ネスレ日本 高岡浩三社長
たかおか・こうぞう 1983年にネスレ日本入社。「キットカット」等のマーケティング部門などを歩み、2010年に初の生え抜き社長に就任。「ネスカフェアンバサダー」を推進し、業績を大幅に伸ばした。59歳
戦後、日本は新興国型のビジネスモデルで驚異的な成長をとげた。特殊なのは新興国と違い、日本政府や有識者が外国資本の導入をよしとしなかったことだ。日本は敗戦国でローカルの投資家もいなかった。普通は外資を入れるが、日本は資金を持つローカルの銀行に目をつけ、銀行を株主にした。これは極めて特殊です。メインバンク制がある国なんて日本ぐらいですから。
実はこれがガバナンスが育たなかったとか、プロ経営者が育たなかった根底にあると思うんですよ。僕は勝手に「日本株式会社モデル」と名付けています。
――銀行が株主になったことが原因だと。
高岡氏 そうです。銀行は最初は出資先の会社が小さいから、配当より長い目で育てようとする。そこに、日本的な株主総会が生まれた。大株主が銀行で、配当より成長を最優先するから厳しく追及しない。成長資金も足りないからさらに金を貸す。これで全ての産業で利益率が低くても容認する土壌ができ、総会も「異議なし」のしゃんしゃん総会になった。
入山氏 戦後まもなくはソニーやホンダなどのイノベーティブな企業が出たが、1970年代以降は今の新卒一括採用・終身雇用が定着した。これは低コストで大量生産する製造業に適したモデル。キャッチアップ型経営で通用したのは高度成長の70年代~90年代初めまでですね。
高岡氏 ええ。戦後50年で人口が5千万人増えた事実は見過ごせない。つまり日本の高成長は優れた経営者の能力によるものではなく、人口増でマーケットが増え、勤勉な労働者が安い賃金でいい品質のものを作った。これが現実です。
成長するから誰でも経営できた。順送りでトップに就けるように社長の任期も短くなり、短い分、会長、相談役ができて、長く皆で恩恵にあずかれるようになった。全部ひっくるめて日本株式会社モデル。これをまず理解しないと。
――それを平成の30年で変えられなかったと?
高岡氏 そうですね。日本は社員がモーレツに働いてきたから成長してきたのであって、経営手腕によるものではない。だから今の働き方改革も、僕に言わせればやればやるほど国力がそがれるだろうな、と。残業削減を目的化している会社がほとんどでしょ。減らして勝てる戦略があればいいが、それもない。だから働き方改革というより経営改革をしないといけないんです。
早稲田大学教授の入山章栄氏
入山氏 ええ。プロジェクトベースでゆるく仕事をする人が増える。するとプロジェクトが終わるとやめていい。それは株式会社との決定的な違いです。株式会社は上場企業になると、ゴーイングコンサーン(継続企業の前提)といって株主のためにリターンを返し続けないといけない。
株式会社はやめられないので「事業転換」という謎のことをする。それで苦しんでいるのが米ゼネラル・エレクトリック(GE)。日本の大企業はみな苦しんでいる。でも当初の役目を終えた会社も多い。液晶大手のジャパンディスプレイ(JDI)なんかもそうかもしれません。令和時代は株式会社の存在意義が問われる時代になるでしょうね。
――令和時代に企業のリーダーに求められる資質は何でしょうか。
入山氏 センスメイキング理論と言いますが、リーダーの役割は自分のビジョンを部下や共感してくれる人に説くこと。外資系企業はみなそうです。ネスレグループもそうだし、英蘭ユニリーバの前CEO(最高経営責任者)のポール・ポールマン氏などはその典型で、宗教家のようにビジョンを繰り返した。
それは日本でも同じ。会社が納得感のあるビジョンを示し、従業員を啓蒙していかなければならない。逆に自分が共感できないトップの企業ならやめればいい。転職などいろいろチャンスがある時代ですから。
――日本にビジョナリーな経営者はいますか。
入山氏 今の勝ち組の企業はリーダーの顔が見える。日本電産永守重信さんやファーストリテイリング柳井正さんであり、部下に夢を見させられる人だ。壮大なビジョンを語り、それにほれて人が集まる。
ビジョンは30年とか時間軸が必要。2期4年の社長ではビジョンの腹落ちができない。米デュポン(現ダウ・デュポン)は100年委員会みたいな組織があり、毎年100年先を考える。極端ですが、孫さんは300年先ですよね(笑)。
高岡氏 経営者に必要なのは戦略立案能力です。うちの社員が戦略をプレゼンするとき、その資料の社名をネスレから競合他社に変えてみる。それで違和感なく、他社でもできそうなものは全部バツですよ。
企業が有価証券報告書で公表している戦略や、業績発表会の時に社長が説明する経営戦略をそういう目で見てください。残念ながら99%はバツでしょう。この会社にしかできない、他社には容易にまねできないというものがほとんどない。
――グローバルな経営者と比べるとそこが見劣りするということですね。
ネスレ日本社長兼CEOの高岡浩三氏
高岡氏 僕は外資系のネスレに入ったので戦略を作る能力が一番鍛えられた。社長に就いた際、どうするか考えました。キットカットは受験生に好評だったが、ネスカフェの落ち込みはカバーできない。人口減でパイは縮む。値上げが無理なら、イノベーションを起こすしかないと考えた。
イノベーションとは、顧客が気づいていない問題を解決すること。顧客がそれまで諦めていた問題だ。だからイノベーションが起きた時に驚く。新しい現実を見極め、アタマを整理してできあがったのが、オフィスにコーヒーマシンを無料で貸し出すネスカフェアンバサダーの仕組みです。
入山氏 まさにオフィスの常識を覆しましたね。僕も以前は一階にコーヒーを買いに行くのに1日1時間かけていましたが、諦めていましたから(笑)。
高岡さんは率直に天才だと思いますが、最初から発想力があったわけではなく、グローバルネスレにいたのでものすごく多様な人と交流している。そこでは日本の常識が全く通用しない。例えば、「何で日本の会社はハンで押したように新人を4月に一括採用するのか」と聞かれて、答えられなかったとか。
高岡氏 ええ。ネスレではダイバーシティーがすごく進んでいる。ローカル採用でも優秀だと認められると、本人が同意すればグローバルの経営幹部に抜てきされる。その代わり、二度と母国で勤務できない。僕は最初の例外ですが、それだけ人材の多様性を重要視しているわけです。
日本企業はあまりに日本人だけでやってきたから常識だと思っているが、外国人には理解できないことばかり。僕はずっと聞かれ続けてきたので苦労したけど、常に考える癖がついた。これは感謝してますね。
入山氏 僕は「知の探索」と言いますが、イノベーションには知と知の組み合わせが必要。副業も効果的です。ロート製薬は大企業で真っ先に副業を解禁したが、その狙いも新しい経験や知見、人脈を作り、持ち帰ってもらうためです。
高岡氏 ネスレ日本では継続的にイノベーションを起こせるような取り組みを行っています。大事なのは顧客が気づいていない問題を発見すること。この問題発見能力を磨くには新しい現実をみるしかない。例えば、高齢化社会では1人、2人暮らしの高齢者が増えて、孫と会えずに寂しいと。それなら、コーヒーマシンをIoTでつなげば子供の家とつながる。ボタンを押すと安否確認もできるし、メッセージも届く。
そんな発想を募るイノベーションアワードを続けています。初年度は79件しか応募がなかったが、18年は5000件を超えました。
――会社の仕組みとして定着してきたんですね。
高岡氏 そうです。面白いデータがあります。スタートアップで成功した起業家と、大会社の役員の能力を比べたところ、3つだけ違ったと。1つは起業家は最後まで成功に行き着こうとする能力が高い。2つ目はオーナーシップ。雇われでなく、自分のアイデアを自らやるから一生懸命できる。面白いのが3つ目で、人を説得する能力と情熱。自分のアイデアを実現させるために人を巻き込まないといけない。これがリーダーシップにつながる。
――そのようなリーダーの養成には何が必要?
入山氏 1人ダイバーシティーと言いますが、多様な経験を積むことです。米GEなどは極端で「島流し」のような人事もする。新興国で新規事業立ち上げをやったかと思えば、次は先進国のつぶれそうな子会社の再建を任される。多様な知を経験するから、革新的なことを起こせる。大体GAFAなど時価総額上位の会社の多くはこの30年内にできた会社で、ほとんど変人がつくっている(笑)。一方、日本は変人をつくる教育をしていない。
高岡氏 もし社内で育てられないなら外からトップを入れればいい。それがガバナンスだと思う。日本企業のガバナンスと社外取締役の現状をグローバルで見れば、幼稚園みたいな感じですね。日産自動車の問題で言えば、トップの暴走を正当化するつもりはないが、それを止められなかった取締役会自体がガバナンスの機能をなしていない。
本来ガバナンスはトップなどに暴走させないために、取締役の圧倒的多数を社外から持ってくるのが海外のスタンダードです。日本はまだ始まったばかり。注目はリクルートホールディングス。経営諮問委員会のメンバーをやりましたが、外部の意見をどんどん採り入れて、グローバルに近い経営をしています。
――日本でもスタートアップが育ち始めています。今後必要なことは?
入山氏 フリマアプリのメルカリやAI開発のプリファード・ネットワークスのような企業がどんどん出てくる必要がある。令和時代は間違いなく出てきます。いま東大や京大でイケてる層は起業しますよ。そのためには日本の偏差値偏重の教育システムも変える必要があります。
高岡氏 偏差値教育の弊害はありますね。答えがあることに対する教育は一生懸命やるが、社会に出ると答えのある仕事なんてひとつもない。だから、最初の研修のグループワークで新人が役員に発表する時、酷評するんですよ。特に僕が。みな驚くが納得します。
僕はネスレに入った社員に「おめでとう」と言わないんです。ネスレに入って良かったかはまだ分からないし、こっちも分からない。だけど自分のやりたいこと、志が達成できるならいいし、我々もそういう土壌は作りたい。僕だけでなく、皆が考えてどんどん会社を変革していってくれればいい。そう思います。

編集長の目 平成モデルと決別の時

 
 仕事上の付き合いがある両氏はいずれも企業の経営戦略やイノベーションに関する専門家で、論客でもある。「平成は失われた30年」と喝破した高岡氏の指摘は一見厳しいが、グローバル経営の最前線を知るだけに重みがある。
 実際、平成は日本の競争力が低下した時代と重なる。1989年の世界の時価総額ランキングで上位50社中32社を占めた日本企業は現在、トヨタ自動車1社。上位には米GAFAや、中国アリババ集団、騰訊控股(テンセント)など米中勢が並ぶ。
 優秀な社員がいないわけではない。問題は戦略立案能力が弱いこと。すなわち、リーダーシップの差である。従来型の雇用形態を引きずり、新しい発想を生み、育てる組織にもなっていない。必要なのは「働き方改革より経営改革」という高岡氏の指摘は正しい。
 令和時代を迎え、日本は「低迷した平成モデル」と決別するチャンスととらえるべきだ。その芽はすでにある。
 上場したフリマアプリのメルカリに続き、AI(人工知能)開発のプリファード・ネットワークスや名刺管理のSansan(サンサン)など、非上場で企業価値10億ドル以上のユニコーン企業や予備軍が日本でも増え始めた。
 プリファードの西川徹社長は東大大学院在学中に東大や京大の仲間と起業。今や中国、米国など世界中の優秀な若者が門戸をたたく。組織は徹底的にフラット。仕事も上からの指示は一切ない。やりたいテーマを自由に探し、実現のため必要な人材に声をかけてチームを作る。「ロボットとAIを組みあわせて世界一を取りたい」。西川さんの言葉に社員も夢を見る。
 イノベーションを起こすには国籍、性別、世代など多様な人材が不可欠だ。「多様な意見が出れば、当然会議はもめる」と入山氏は指摘する。全会一致の会議にイノベーションなど起きない。少数意見でも耳を傾け、どのアイデアで勝負するか、徹底的に議論し、いざ決まれば目標達成へやり抜く胆力が必要だ。そのためには、画一的な日本の教育システムの見直しも要るだろう。
 スタートアップの広がりなど、若い世代を中心に日本でも起業の動きや働き方に変化の兆しはある。その動きをどう広げ、どう太い流れにしていくか。新時代に持ち越した日本全体の宿題である。(宮東治彦)
日経産業新聞 2019年5月6日付]

さらに一周先。

*[次の世代に]追いかけるとき。
エチオピアと聞くとまるで基礎知識がなかったが、第二次大戦ではイタリアに占領されるも独立を回復し、人口は一億人を超え、紀元100年からの歴史のある国だという。
がそれはともかく。
エチオピアは2019年中に数十億ドル(数千億円)規模の通信民営化を完了させ、続いて電力、海運、製糖会社の株式売却も進める計画だ。
アビー首相が明らかにした。
東アフリカに位置し、1億500万人の人口を抱えるエチオピアは、段階的な経済自由化の一環として20年に証券取引所も開設する計画だ。

 どこか中国の躍進の様子の、さらに凝縮した感じがしないだろうか。

アビー氏は、国営独占企業の株式売却による資金調達よりも、電子マネー電子商取引(EC)、ケニアなどが進める電子政府といったサービスを立ち上げることのほうが重要だと語った。

 中国も共産党支配のもとで、馬車馬のように先進国を追いかけるが、それを「中国の十分の一くらいのサイズ」で、圧倒的なリーダーがやればどうなるのだろうか。

しかも首相は「汚職をしない」と要点を押さえている。

これほどの人口規模で、優れたリーダーが「EC」「電子マネー」「電子政府」を最優先するという。
一気呵成にトップチームに躍り出る日は近いのではないだろうか。
リーダーシップ恐るべし。
これからのエチオピアに注目である。
 
エチオピア首相、民営化推進に意欲
2019年2月25日 3:47
エチオピアは2019年中に数十億ドル(数千億円)規模の通信民営化を完了させ、続いて電力、海運、製糖会社の株式売却も進める計画だ。アビー首相が明らかにした。
東アフリカに位置し、1億500万人の人口を抱えるエチオピアは、段階的な経済自由化の一環として20年に証券取引所も開設する計画だ。
エチオピアのアビー首相は、同国の経済モデルを変えようとしている=ロイター
「私の経済モデルは資本主義だ」と、アビー氏は改装を終えた首都アディスアベバ首相官邸フィナンシャル・タイムズ紙に語った。「仮に今、1000億ドルをもらったとしても、私には使うことができない。(民間部門には)資金だけでなく人材と経験がある。だから民間部門が必要なのだ」
アビー氏は、エチオピア経済の主要部門を支配して利益をインフラや医療、教育に再投資するという従来の方式と決別しようとしている。
公式統計によると、このモデルは17年までの10年以上にわたり年率10%の成長をもたらしたが、生産能力の制約と外貨不足に陥った。現金不足を緩和するため、アビー氏は外国に投融資を求めた。中東諸国が中心で、アラブ首長国連邦UAE)のアブダビからは30億ドルの資金協力を取り付けた。
アビー氏は、1991年から与党の座にある4党連合、エチオピア人民革命民主戦線の政権内からの抵抗に直面することになるだろう。

売却益が見込みを下回る可能性

政府はエチオテレコムの株式49%を売却する計画だ。同社は6000万人以上の契約者を抱え、単一の国の顧客数ではアフリカ最大の通信会社だが、銀行関係者によると、債務構造が不透明で顧客1人当たりの収益率が低いことから売却益は政府の見込みを下回る可能性がある。
アビー氏は、国営独占企業の株式売却による資金調達よりも、電子マネー電子商取引(EC)、ケニアなどが進める電子政府といったサービスを立ち上げることのほうが重要だと語った。
銀行筋によると、エチオピアは無線通信の周波数を競売で新規の2グループに割り当てることになりそうだ。南アフリカのボーダコムやMTN、仏オレンジなどの応札が見込まれるという。
シティバンクのアフリカ投資銀行業務責任者ミゲル・アゼベード氏は、投資家とアフリカでの収益機会について話をすると「真っ先にエチオピアの名が上がる」と言う。
アビー首相は、汚職が絡んでいるとみられないよう慎重に民営化を進めていくと話した。「通信を民営化して教訓を学び、慎重に評価し、続けていく」
By Lionel Barber & David Pilling
(2019年2月25日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/
 

 

文学からの学び。

*[次の世代に]先人に訊け
日経「もしもブラックジャックなら」シリーズ。
漫画の一話をモデルにしたビジネス相談だ。
それにしてもこうした書評があるのは、手塚治虫の画力と構想力と、さらには原作がシラノ・ド・ベルジュラックだからだろうか。
いい作品は命が長い。
記事は長文だけれど、「行動することの意義」を問うている。(原作もぜひお読みください)
ビジネスの世界でも「リスクを取る」ということがしばしば話題になる。
自分は「リスクテイクする派」だが、歩く道は薄氷の上、である。
今その道を踏み抜いたら死ぬかもしれない、ということはよくある。
それでも、言い訳ではないが「リスクを取らずに沈んでゆく自分たち」が見えるのだ。
「そっちにハマらないための悪あがき」と言ってもいい。 
もし何もせずに沈んでゆくのなら、何か行動してみたい、と思うのだ。
案外そこから道が開けることだってある、と確かに思う。
 
そういえば、文学作品の「人の機微」というのは、ビジネスになぞらえてみると案外奥深い。
日経の記事はそんな気づきから連載されているのではないだろうか。
文学のビジネス戯曲、などというコラボは面白いのではないだろうか。
 
 
職種転換の悩み ブラック・ジャックはどう励ます
2019年2月15日 21:30
(C) Tezuka Productions
もしも天才外科医のブラック・ジャックが現代のビジネスパーソンの悩みに答えたら、どんなセリフを言うだろう。核心をズバリと突いた洒脱(しゃだつ)な一言で必ずや、私たちの迷いを断ち切ってくれるに違いない――。
 
本連載は各話3部構成。
(1)[ある職場で] よくあるビジネスパーソンの悩みやボヤキを紹介します。
(2)[ある一話] (1)のヒントになりそうな『ブラック・ジャック』の物語を紹介します。
(3)[ここに注目] (2)の物語が(1)の悩みやボヤキにどんなヒントになるかを考えます。

[ある職場で]総合職への転換をためらうアシスタント

Tさんは商社に一般職として入社して5年目の女性社員。営業アシスタントをしている。
入社時の配属先でお世話になったのが、U先輩だ。面倒見が良く、仕事のコツから人間関係の注意点まで、懇切丁寧に教えてくれた。それだけではない。何をやっても手際が良く、朗らかで周りを明るくしてしまう。英語も堪能で、海外のクライアントからの信頼も厚い。営業アシスタントのお手本のような女性だった。
TさんはそんなU先輩に憧れて、何とか追い付きたいと頑張ってきた。教わったことはすぐにメモして、忘れないうちに見直した。先輩の電話応対に耳を澄まし、コツをつかもうと努力した。苦手意識のあった英語を克服したくて、オンライン英会話も始めた。
U先輩は一昨年、その実力が認められ、一般職から総合職に登用された。総合職としても活躍し、今では女性活躍推進プロジェクトのリーダーだ。
先輩が抜けたとき、Tさんは、「戦力ダウンしたと言われないかしら」と、内心、不安だった。その不安を払拭しようと、それまで以上に仕事に打ち込んだ。そのかいあって最近では、海外のクライアントから「彼女とはコミュニケーションが取りやすい」と、名前を挙げて評価されるまでになった。
先日、上司から「総合職でやってみないか」と、声をかけられた。登用試験が来月あるので、受けてみてはどうかというのだ。何でも、U先輩のケースがうまくいったこともあって、一般職から総合職への転換を積極的に推進したいのだという。
そこで自分に白羽の矢が立ったと知り、Tさんは正直、うれしかった。
けれど、「はい、やります」と、即答することはできなかった。いくつもの不安が頭をよぎったからだ。
「U先輩のように自分から動いてテキパキ仕事するなんて、私にできる気がしない。今でも指示されたことをやっているだけだし……」
「英語だって、ビジネスで使えるレベルにはまだまだだし……」
「そもそも登用試験に合格するかも分からない。落ちたら、ちょっと恥ずかしいな……」
総合職でやってみたい気持ちがないわけではない。努力も実績も積み上げてきた。
けれど、次々と浮かんでくる不安に、Tさんは決断できずにいる。気が付けば、登用試験の申込期限が近づいていた。
この事例にブラック・ジャックのある一話を思い出した。

[ある一話]気が弱いシラノ

マンモス団地に住む3人の若者。
白野(しらの)は、別棟に住むジュンちゃんに恋をしている。彼女は病気で自宅療養中だ。
白野は献身的に見舞いに訪れるが、ずっと告白できずにいる。自分の容姿に自信がないからだ。白野の鼻は、ひどく大きい。顔の半分ほどもある大きさだ。
一方、ジュンちゃんはといえば、向かいの棟に住む栗須(くりす)のことが気になってしょうがない。朝夕、窓越しに彼女に向かって声をかけてくる美男子だ。
(C) Tezuka Productions
「ねえ あの人のこと もっと知りたいわ…」と、ジュンちゃんは見舞いに来た白野に相談する。「まだ一度も見舞いにもこないあいつがそんなに好き?」と問えば、「そんないいかたはよして!!」と機嫌を悪くする。栗須にぞっこんだ。
そんな彼女に白野は、栗須から預かったという手紙を時々手渡している。
実は、ジュンちゃんを元気づけたい一心で白野が書いた、嘘の手紙だ。
栗須からだと思い込んで舞い上がる彼女を見るにつけ、白野はやるせない気持ちになる。部屋を出ると、「くそっ…… オレの顔……」と肩を落とすのだった。
ある日、白野は団地の一角で栗須をつかまえ、ジュンちゃんのところに見舞いに行ってやったらどうだと迫る。だが、栗須は「そこまでする気はないよ」「ちゃんと恋人もいるんだ そういってくれ」と、取り合わない。
白野は懇願する。「彼女を愛してやれとはいわない……せめて はげましてやってくれよ」。しかし、それすらも「よけいなおせわだ」と一蹴され、それに腹を立てた白野は栗須を殴りつけてしまう。
その後、久しぶりに白野がジュンちゃんの家を訪れると、病状が悪化していた。彼女が、うわごとに名前を呼ぶ。
「栗須さん……どうしたの……会いたい……」
どうやら、ここのところ栗須は、窓越しに声をかけることすらやめてしまったらしい。
「あのふざけたヤローめ……」と白野は栗須の家に飛んでいく。しかし、部屋は空っぽだ。隣人に尋ねると、驚くべき事実を知らされる。
栗須はつい数日前、交通事故で亡くなったというのだ。頭が真っ白になる白野。
「ジュンちゃんがこのことをきいたら……」
彼女にはとりあえず、「栗須はね 旅行中なんだってさ」とごまかした。
しかし、この先どうしたらいいのか、途方に暮れてしまう。彼女を元気にできるのは栗須だけなのに……。
思いつめた白野はブラック・ジャックのもとを訪ねた。自分の顔を栗須の顔に変える手術をしてほしいと頼むためだ。
(C) Tezuka Productions
そんな白野に、ブラック・ジャックは険しい表情を見せる。
「なぜそんなやつの身がわりになんかならないで 堂々と彼女に話さないんだっ」
白野が「見てください ぼくの顔を!!」と反論すると、「顔? 顔がなんだよ 映画スターのコンテストじゃねえ!」とはねつけ、叱咤した。「三年間もその子とつきあってて その気持ちもいえないなんて バカの腰抜けだ」と。追い打ちをかけるように「手術代は高いぜ 変身料5000万円だ」と吹っかけた。
白野が腰を抜かすと、ブラック・ジャックは表情を緩めた。
「だけど安いのもある」と切り出すと、「千円ってのもある どうだい」と、白野に選ばせる。
「それでいいです!!」――すぐさま白野は決断した。ブラック・ジャックは「顔がかわるのを後悔しやしまいね」と念を押すと、白野に麻酔をかけ、眠らせた。
手術後、顔を包帯でぐるぐると巻かれた白野。3カ月間は取れないと言われている。
その姿を見て、ジュンちゃんは心底、驚き、心配する。白野は、怪我をしただけだと嘘をつき、治ったら早々に引っ越して、姿を消すと告げた。
そして「栗須はきっときみに会いにくる! ちかってもいいよ」と、彼女を力強く励ました。
そんな白野を見て、ジュンちゃんは「栗栖さんとあなたとは別だわ」とつぶやく。
しばらくたってからのこと。ジュンちゃんの病状は快方に向かっていた。まだ包帯姿の白野が「栗須が帰ってきたら きみの元気な姿を見せられるね」と力づけようとすると、意外なことを言い出した。
長いこと栗栖に会っていなかったら、会いたい気持ちが薄れてきたというのだ。
「えーっ!?」 ―― 白野が思わず叫ぶ。あんなに好きだったのに……、と戸惑いを隠せない。
そして手術から3カ月がたち、そろそろ包帯がとれる時期も近くなった。白野は、ジュンちゃんの家を訪れた。
「もうすぐお別れだね」「そのかわり栗須がここへくるからね」と言い聞かせる白野に、ジュンちゃんがすがりついた。
「いや いやよ!!白野さん 行っちゃいや ずーっとあたしのそばにいて」
泣きじゃくりながら、「あたし 子どもだったのね」「愛ってなにか やっとわかったの」と、打ち明けるジュンちゃん。告白された白野は動揺し、自宅に逃げ帰る。
「どうしよう オレはもう栗須の顔だ!!」
机に突っ伏して頭を抱える白野。いてもたってもいられず顔の包帯に自らはさみを入れる。裂けた包帯の間から見えてきた顔は……。なんと鼻の大きな白野のままだった!
ブラック・ジャックは、手術したふりをしただけだったのだ。
(『ブラック・ジャック』第141話「気が弱いシラノ」=秋田書店 少年チャンピオン・コミックス15巻/電子書籍版8巻収録)
思わず安堵する結末。白野の献身は、ジュンちゃんの幼い恋心を大人の愛情に昇華させた。
この物語が、総合職への転身をためらうTさんに、どんなヒントになるのか。

[ここに注目]行動を起こさなければ分からない

心理学に、「ビュリダンのロバ」という例え話がある。
飢え死に寸前のロバが、分かれ道に立っている。左右どちらに進んだ先にも、干し草の山が見える。干し草までの距離は、左右ともに同じ。そこでロバはどうしたか。「あっちの草は古いかもしれないし、こっちの草は苦いかもしれない」などと考え込んで、動けなくなった。そのうちとうとう飢え死にしてしまった――。
この話が示すのは、「何かを選択、決断し、行動を起こすことの難しさ」だ。
物語の白野が置かれた状況は、ビュリダンのロバと似ている。
右に行くのか、左に行くのか。
ジュンちゃんに告白するのか、しないのか。
白野は、「断られたらどうしよう」と決断をためらい、行動を起こさずにいた。だからといって、ジュンちゃんのことをすっぱりと諦め、ほかに恋人を探すという決断にも至らない。白野はどっちつかずのまま、ジュンちゃんの周りでぐずぐずと足踏みするばかりだった。
そんなところに、栗須の死という事件が起きる。
それを機に白野は、右を選ぶでもなく、左を選ぶでもない、突拍子もない「第3の道」を選んで突っ走った。告白するのでもなければ、しないのでもない。「ジュンちゃんの愛する栗須になりすます」という、思いがけない選択だ。
彼にしてみれば、「リスクの低い選択」をしたつもりだったのだろう。何より、ジュンちゃんを悲しませずに済む。さらに同じ告白をするのでも、自分の顔でなく、栗須の顔であれば、ジュンちゃんに振られることはまずない。だから、傷つかずに済むはずだ、と。
だが、その選択は結果として間違いだった。ジュンちゃんが、白野を好きだと言い出したからだ。告白された瞬間、白野は自分の選択を激しく悔やむ。下手にブラック・ジャックに頼んで栗栖の顔になる手術など受けなければよかった! 引き返せるものなら引き返したいと。
(C) Tezuka Productions
では、動かないほうがよかったのだろうか。下手に動かず、いつまでもロバのように足踏みしていればよかったのだろうか。いや、そんなことはない。
まず、白野が行動を起こしたことがきっかけとなり、ジュンちゃんは自分の本当の気持ちに気付けた。
それだけではない。より重要なのは、白野自身に、自分の選んだ「第3の道」が間違いであることが分かったことだ。栗須になりすませば誰も傷つかずに済むという想定は、間違っていた。
この「間違っていた」と、分かること自体に価値がある。
ロバの例えで言うなら、右に行くか左に行くか足踏みしていたら、「あっちにすごくおいしい草があるらしい」との評判を聞いた。しめたとばかりに「第3の道」に食べに行ったのに、いざ口にしたら「まずいじゃないか!」といった状況だ。
こうやって「間違っていたと分かる」ことに価値がある。
それは、次の行動につながるからだ。
間違えたと分かったなら、その時点から全力で引き返し、右でも左でも、別の道に向かえばいいだけなのだ。選択肢を片っ端から試してみれば、最後には、どれがおいしくて、どれがまずいのかが分かる。もちろん、一度目のトライで、おいしい干し草にありつけることだってある。いずれにしても、行動を起こさず足踏みしていたら何も分からないままなのだ。
物語では白野が「間違いだった」と引き返してくることを見越したブラック・ジャックが、その先にあらかじめ粋な計らいを準備していたわけだが……。
 
Tさんも今、身動きが取れなくなっている。
総合職に転換するのか、しないのか。
 
白野やビュリダンのロバと同様に、2つの選択肢の前で決断を下せず、足踏みしている。
足踏みしてしまうのは、「うまくいかなかったらどうしよう」と思うから。もしも、うまくやれなかったときに、恥ずかしい思いや、残念な思い、悔しい思いをしたくないから。ロバでいえば「まずいほうを食べて後悔したくない」。そんな気持ちが強いのかもしれない。
しかし、結果がどう転んだとしても、決断を下し、行動を起こすことには意味がある。その体験から得るものは大きいし、本当に嫌だったら、やり直すこともできる。総合職の試験を受けたり、実際に総合職をやってみたりしてから、「やっぱり私には向きません」と、上司や人事部に申し出てもいい。実体験があれば、断るときの迷いは減るだろう。
要するに、うまくやれなかったら戻ればいいし、「うまくやれなかった。自分には合わなかった」と分かること自体に価値がある。
そもそも、Tさんの総合職への転換は、まだ失敗すると決まったわけではない。チャレンジすらしていないのだから実際に挑戦しないかぎり「失敗するかどうか」の答えは永遠に出ないままだ。やってみたら、案外、「総合職のほうが合っていました」という結果になることだって十分あり得る。
憧れのU先輩だってこれまで失敗なくやってこられたのだろうか。恥ずかしい思いや悔しい思いを一度もすることなく、今に至っているのだろうか。そんなはずはないのだ。
ブラック・ジャックならTさんにこう言うだろう。
(C) Tezuka Productions
「白野はとにかく行動を起こしたぞ。まあ、きっかけは褒められたもんじゃないがな。価値があると分かって行動するんじゃない。行動すること自体に価値があるんだ。おまえさんも覚悟を決めることだな」
[『もしブラック・ジャックが仕事の悩みに答えたら』から再構成]

 

 
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なんだこれは? こそが芸術。

 
*[次の世代に]実はそこにも
ほぼ日より。
岡本太郎さん曰く。
「これはなんだ?」が芸術である、と。
人のこころに「これはなんだ?」とさざ波を立てるもの。
そうか。
「あの人の演技はもはや芸術です」とか。
「これはもうアートですね」とか。
「オケの演奏は感動を超えて芸術的なものだった」とかよく聞きますが。
 
要するに芸術って「そうそう簡単に理解できないもの」ということらしい。
確かに。
ダリやシャガールの絵を見たってレンブラントの「夜警」を見たって、実はよく分からない。(ひー)
ショパンやバッハは好きだけどどこまで分かっているかどうか。
現代音楽に至ってはまさしく「これはなんだ?」と思う。
Jazzは心地いいから好き。
 
楽譜があって定期的に演奏されたり、
いつも開催されるトーナメント戦だったり、
あるいは名物教授のいつもの講義だったりしても「なんだこれは?」は確かに存在するようだ。
 
自分たちの日常にも「芸術」はあるかもしれない。
芸術的なプレゼン、とか芸術的なプログラミング、とかは聞いたことがあります。
非日常を感じさせる「なんだこれは?」を至るところで探してみるのは楽しい発見になりそうだ。
探すことだって芸術だぁ。
 
今日のダーリン
・そんなふうなタイトルの本だって、きっと、
何冊も出ているにちがいないのだけれど、
「芸術ってなんなんだろう?」という問題はおもしろい。
異論反論あるかもしれないけれど、ぼくには、
テレビ番組のなかで直接聞いた岡本太郎さんの答えが、
いまになってもそれを考えるときの軸になっている。
「これはなんだ?」が芸術である、と。
 
人のこころに「これはなんだ?」とさざ波を立てるもの。
ぼくなりに理屈をくっつけるならば、
「いままでの感じ方や考え方で処理しきれないので、
これはなんだと、新たな疑問が湧いてきてしまう」
というようなものごとが、芸術なんだということかな。
ぼくは、その番組の司会者という立場だったので、
「これはなんだと思うものは、なんでも芸術ですか?」
と、常識的な人間としての質問を差し挟んだ。
岡本さんは、「そうだ」と断言した。
そのとき、直前に話題にしていたのは、
御茶ノ水橋の側面に無数にペタペタ貼り付けられていた
ガムの噛みカスのことだった。
そのガムの噛みカスには、ひとつずつ、
爪を押し付けたらしい「人の顔」が描かれていた。
迷惑なゴミだし、しつこいいたずらでもあるが、
目と口が弧になっているので、ガムは笑顔に見えた。
見ようによっては、五百羅漢のようだった。
つまり、これを岡本太郎画伯は、
落書きやらいたずら行為であると言うのではなく、
「これはなんだ?」、つまり芸術であると思ったのだ。
 
社会の常識、法律や条例などでどういう意味を持つか
…とは別に、これは「芸術」です、と言ったわけだ。
それは「芸術であり、罪である」ということもあるさ、
と、その意味をも含んでいたかもしれない。
 
「これはなんだ?」は、あらゆる場所に出現する。
音楽のなかにも、人のことばのなかにも、
建物のなかにも、舞台の上にも、映画の闇のなかにも、
ときには恋愛や犯罪のなかにも芸術が見つかるだろう。
あのことばを聞いてから30年以上も経ったいま、
ぼくは「これはなんだ?」に「わぁ」を足している。
 
今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
「わぁ、これはなんだ?」は、いくらでも生まれている。
 

 

時間を何に使うのか

日経より
*[次の世代に]外の世界と必ず触れよう。
自分で起業をすると、どんなに小さくとも「経営者」になる。
その小さな会社の中、では自分より上の人はいなくなる、という「これまでとは違う世界」になるわけだ。
また経験やノウハウも大事だが、最後は人間としての器をどう広げるかも重要だ。
様々な人たちの生き方や経験を聞くことが人間としての成長につながる。

 まずは「タコ壺」に入らず「外の世界と触れ合うこと」だと思う。

実際、他業種や他業界の話を聞いていると、知らないことだらけでびっくりする。(けれども楽しい)
さらに。
もちろん聞いただけでは足りず、自分自身がどう向き合うか、どう変われるかが問われる。
本当に苦しいが、これで前進できる。
器を大きくするのに必要なのは眠れない日々の中で逃げずに課題と真摯に向き合い、一歩でも二歩でも前に進み続けることだろうと思う。
そういう「眠れない日々」を迎えてもどれだけ逃げずに居られるか?ということに尽きそうだ。
もはや「人間性」というしかない。
自分が「何を原点の価値観にしているのか」ということがそのまま問われるのだと思う。
 
こんな話は、毎日地面を這い回るような中で拾っていくのではなく、スマートな教室で教えてもらいたかったなぁと思うが、多分ムリなのだ。
「地べたを這い回ることも重要なのだ」というメッセージだけを聞いておいて、あとは実戦へGo!するしかない。実戦あるのみ、ってよく聞くフレーズだ。
 
異文化との交流には積極的にチャレンジする時間を持った方がよい。
自分がそうだが、つい考える範囲を限定してしまうのが「経験の悪影響」なのだと思う。
 
 
 
経営者が学べる場とは
2019年4月28日 19:30
経営者が学べる場とは
最近、経営者の学びや成長とは何かと考える。私は日本テレビ時代から新規事業の立ち上げを経験し、ソニーに移ってからは組織を成長させる方法を学んだ。
1989年筑波大卒。ソニーなどを経て2003年ハンゲームジャパン(現LINE=ライン)入社、07年社長。15年3月退任、4月C Channelを設立し、代表取締役に就任。
ハンゲームジャパンに移ってからは組織成長の壁や経営者としての苦悩を学び、同時にライブドアなどのM&A(合併・買収)を経験して異なる外部組織や文化を組み合わせたときの課題を学んだ。LINEが成長してからはグローバル展開の仕方や外国人マネジメントの課題解決方法、C Channelを立ち上げてからは組織を作り上げる苦労を学んだ。
しかし多くの経営者の会で様々な方の真剣な話を聞くと、自分はまだまだだと思うことが増えている。
一つの理由は経営の仕方が変化している点にある。経営環境の変化が速く、課題について調査し意見交換をしているうちに環境が変わってしまう時代。議論も大事だが、やってみることの方が大事である。
そして働く人たちの意識も変わってきている。昔は「新規事業は徹夜でやろう」ということも正直あったが、最近では「ブラック企業」と敬遠されてしまう。良いサービスや事業を素早く立ち上げるには優秀な人材を引き付ける職場環境やインセンティブの設計が欠かせない。そのうえ常に変化するなかで最適なマネジメントが必要になる。これには日々悩んでいる。
また経験やノウハウも大事だが、最後は人間としての器をどう広げるかも重要だ。様々な人たちの生き方や経験を聞くことが人間としての成長につながる。もちろん聞いただけでは足りず、自分自身がどう向き合うか、どう変われるかが問われる。本当に苦しいが、これで前進できる。
器を大きくするのに必要なのは眠れない日々の中で逃げずに課題と真摯に向き合い、一歩でも二歩でも前に進み続けることだろうと思う。若手経営者の相談に乗り、アドバイスもしてあげたいが、自分自身もなかなか余裕がない。むしろ学ぶ場を紹介したい。
「EO」は入って1年以上が過ぎたが、フォーラムという、メンバーと率直に経験をシェアし、自身について気付く場があり、本当に学びがある。もちろんメンバーが良いということもあるが、経営者ならではの組織やお金、家族などの悩み、それとどう向き合うのかという部分について、多くの気づきを得られる。
「WAOJE」については海外で苦労した人たちの色々な経験や人脈が刺激になる。もちろん全てではないが、ともに前に進もうと思う人たちのネットワークは、孤独な経営者にとっては励みにもなるだろう。
忙しい日々の中で何に時間を使うか。これは経営者にとって重要なことだ。単に群れるということではなく、自身の経営者、そして人間としての成長に必要だと思う方に、参加をおすすめしたい。
日経産業新聞2019年4月26日付]
 

 

バック from the フューチャー。

*[次の世代に]いつだって遅くない。
鴻上尚史さんの人生相談より。
66歳のエリート男性の価値観について、興味深い実例なのでお時間があればぜひ読んでみてください。
でそれはともかく、この4行。
えっ? もう66歳だから、変わるには遅すぎると思う? 先月、僕が書いた「前向きになる」方法は読んでないですか?
「自分は、10年先から戻ってきたと思う」というものです。
本当は76歳なのに、奇跡が起こったか、タイムマシンの魔法か、とにかく10年、時間が戻って今、66歳になった、と考えるのです。
どうですか? 66歳を嘆く気持ちから、可能性を感じる気持ちになりませんか?
たとえ50過ぎのおっさんでも。
いわんや40代や30代でも。
(しかし「20代以下」ではまだ先を想像する力がないかもしれない。何せ若いから)
この方法は四十代以上の人に効果があるのではないだろうか。
 
55歳の自分だって、65歳から見れば「あと10年もあるじゃないか」となる。
85歳の父親だって、95歳から見れば「あと10年ありますよ!」だ。
 
自分の年齢に、自分たちはつい「アキラメ感」を持ちたくなる。
もう40なのに。
もう50なのに。
もう60かよ。
ああ70だ…(想像)
けれどそれってあまり楽しくない。
歳を取っても「10年先からの今」を考えれば、結構な時間はあるじゃない、と。
 
これからの時間を想像して「残り時間は少ない」と思うと焦燥感ばかりが募るものだ。
「先の自分」から見てみよう、という案はさすが鴻上さんである。
素晴らしい。
くれぐれも、「昔の自分にアドバイスする」のではない。
「10年先の自分」が「今の自分」を眺めるのだ。
早速やってみようっと。

66歳男性が風呂場で涙… 友人もいない老後を憂う相談者に鴻上尚史が指摘した、人間関係で絶対に言ってはいけない言葉

連載「鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい『世間』を楽に生きる処方箋」

2019.5.6 16:00#鴻上尚史
 鴻上尚史の人生相談。定年退職、嘱託を経て、今年から本格的に隠居生活に入ったという66歳の男性。兄弟からも妻からもつれなくされ、途方にくれる相談者に、鴻上尚史がおくった第二の人生を生きるヒントは「無意識に自分の価値観をおしつけない」こと。
 
【相談27】隠居後、孤独で、寂しくてたまりません(66歳 男性 有閑人)
 
定年退職、嘱託を経て、今年から本格的に隠居生活に入った66歳です。隠居したら、今まであまり会っていなかった弟たち(弟が2人と妹が1人います)とも食事をしたり、妻とも旅行をしたり、のんびりしようと考えていました。 しかし、いざ弟たちに連絡しても忙しいからと何度も断られました。ちょっとおかしいと思い、妹に連絡したら「お兄さん、気づいてないの? みんなお兄さんが煙たくて、距離とっているんだよ」と。寝耳に水でした。妹によれば、私が長男で母から優遇されすぎたし、弟たちの学歴や会社をバカにしてたのが態度に出すぎてた、というのです。たしかに私は兄弟のなかでも学歴も会社も一番上で、母の自慢でした。弟たちをみて、不甲斐ないと思ったこともありましたが、それは私が努力したからです。弟たちにとって私は自慢の兄だろうと思ってきました。弟たちの不甲斐なさをちょっとからかったこともありましたが、兄弟のことです。
 
思い切って弟に直接電話してたしかめると「姉ちゃんに聞いたんならわかるだろう。兄貴と呑んでもえばった上司と話しているみたいで酔えんから」とつれない返事でした。結局、妻も「旅行は友達と行ったほうが楽しいから」と私と行こうとはしてくれません。
 
弟たちの僻みも、家族のためにと頑張って出世して養ってきた私に薄情な妻にも、許せないという気持ちでいっときは怒りでいっぱいになりました。妻が外出しようとしたとき、「食事ぐらい作ってからいけ」と怒鳴ってしまったこともあります。後悔して自己嫌悪になりましたが、後の始末です。妻とはさらに距離ができてしまいました。
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 誰にも言えませんが、最近、風呂に入っていると涙が出てきます。弟たちのことだけでなく、振り返ればとくに心を割って話せる友人もいないことに今さら気づきました。
 
どうやってこの後の人生を過ごしていいか、お恥ずかしいですが、孤独で、寂しくてたまりません。
 
いまさら、私はこれからのありあまる時間を、どうしたらいいのでしょうか。どうしたら、弟たちと仲良くできるのでしょうか。楽しい人づきあいのコツはなんなのか全くわかりません。解決法が浮かばず、途方に暮れています。
 
【鴻上さんの答え】
 有閑人さん。よく、相談してくれました。立派な学歴と優良な会社に勤めた有閑人さんにとって、自分が弟・妹・妻にうとんじられている、ということを認め、お風呂で泣いていることを告白するのは、とても勇気がいったでしょう。
 
先月、親身に相談に乗っているつもりだった友人から、「いつも上から目線だった」と言われて、絶交されて落ち込んでいる女性の相談に答えました。
 
自分では世話好きだと思っている女性には、じつはありがちなことだと思っています。相手のことを思っているつもりで、自分の考えを無意識に押しつけている場合です。
 
そして、男性は、有閑人さんのケースが多いと思っています。
 
女性のようにあれこれと世話をするのではなく、「もっとガンバレ」と説教・激励・指導するパターンです。
 
勝ち組とまで言わなくても、自分がちゃんとやってきたとそれなりの自信を持っている男性に、この傾向が強いです(女性の場合は、じつは、自分に自信のない人の方が自分の意見を押しつける傾向が強くなると、僕は思っています)。
 
もちろん、自分はよかれと思ってアドバイスします。女性の場合は、あれこれと相談に乗ったり、色々と世話をしますが、男性の場合は、ただ教訓を語ったり、アドバイスしたり、説教するだけの場合が多いです。だいたいは、ふがいないと怒ったり、強く注意するのです。
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 根拠は、「自分はちゃんとやってきた」ということですね。自分がちゃんとできたんだから、あなたもしなさい。自分はがんばって努力したから、あなたも努力しなさい。きっとできるはずだ、それができないのは、あなたの努力が足らないからだ、という思考の流れです。
 
でもね、有閑人さん。がんばってもできないことはたくさんあるのです。
 
僕は小学校から、跳び箱とマット運動、鉄棒が苦手でした。「蹴上がり」という鉄棒の技が、体育の課題に出て、三週間ほど放課後、毎日練習しました。奇跡的に何回か成功しましたが、体育のテストの時はできませんでした。
 
体育の先生は「努力が足らない」と怒りましたが、僕は毎日、1時間は鉄棒にしがみついていました。
 
「蹴上がり」を楽々と成功させたクラスメイトは、まったく練習なんてしていませんでした。ただ、生来の運動能力の高さとクラブ活動で鍛えた筋肉が、なんの努力もしないで「蹴上がり」を成功させたのです。
 
人間には向き、不向きがあって、僕はいまだに数字の計算が苦手で、でも本を読んだり文章を書いたりするのは大好きです。
 
有閑人さんは、「努力していい大学に行くこと」「立派な会社に勤めること」「仕事で結果を出すこと」という価値観で生きてきたのでしょう。そして、その価値観から見て、「努力してない人」「ふがいない人」「能力の足らない人」にアドバイスをしたくてたまらなくなるのだと思います。
 
でも、それはその価値観だけの基準です。
 
有閑人さんは、例えば、釣りをしますか? 有閑人さんに、兄がいて、釣りの名人で、毎週末、一緒に釣りに行ったとします。そして、有閑人さんの餌のつけ方、竿の振り方、リールの巻き上げ方などに対して、いちいち、注意し続けたとしたらどうですか? 楽しいですか?
 
間違いなく、「自分はなんのために、兄と一緒に釣りをしてるんだろう」と疑問に思うんじゃないでしょうか?
 
そこで、兄が有閑人さんの釣りの腕をバカにした後、有閑人さんのように「弟たちの不甲斐なさをちょっとからかったこともありましたが、兄弟のことです」と言ったとしたら、納得しますか? 兄弟だから、ということで許されるとは思わないと感じませんか?
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「釣りと仕事は違う」と思いましたか? でも、価値観は人それぞれです。仕事より釣りが大切な人は、『釣りバカ日誌』のハマちゃんをはじめ、たくさんいます。
 
もちろん、釣り以外で、仕事や出世より大切なものがある人はたくさんいます。家族だったり、趣味だったり、食べ物だったり。価値観はひとつではないのです。
 
そして、もうひとつ。仕事が一番大切だと思っているのに、その結果がうまく出ない人も普通にいます。人間には、向き、不向きがあるのです。
 
毎年、高校野球ではユニフォームを着たまま、ベンチではなく、応援席で叫び続ける野球部員がたくさんいます。彼らは、努力をしなかったのか。練習に手を抜いたのか。そんなことはないはずです。彼らも死に物狂いの努力をしたはずです。でも、力が及ばないことは普通にあるのです。彼らに向かって「ふがいない」とか「もっと努力しろ」「ベンチ入りできないお前は恥ずかしい」とは口が裂けても言えないと僕は思っています。本人が自分自身を責めることはあっても、他人が口にする言葉ではないのです。
 
世間的な評価が低い会社に就職したことが嫌だとしても、それを責める資格があるのは、勤めている弟さん本人であって、兄ではないのです。
 
さて、有閑人さん。有閑人さんは、自分の価値観を強く信じ、それを周りに対して、意識的にも無意識的にも押しつけてきた、それが、弟・妹・妻があなたを避ける原因になっている、ということは、なんとなく分かってもらえたでしょうか。
 
でね、有閑人さん。「どうしたら、弟たちと仲良くできるのでしょうか」と書かれていますが、有閑人さんは66歳ですから、弟・妹さんがいくつであれ、たぶん、最長50年以上、そういう関係だった可能性があります。奥さんとも、最長で40年前後ですか。
 
この長い時間で、彼ら、彼女らには、有閑人さんのイメージがしっかりと出来上がっていますから、関係を変えるのは、かなり困難だと思います。
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 何度か会って「今まで、偉そうにして本当にすまなかった」とか「お前たちを見下したような言い方をして反省している」と言っても、相手はちゃんと受け止めてくれないと思います。
 
僕のアドバイスは、「まずは、対等な人間関係を学習しませんか?」ということです。
 
弟・妹さんと仲良くすることは、いったん、あきらめて、他に人間関係を作るのです。見下すことも、見下されることもない関係の先に、有閑人さんが求める「心を割って話せる友人」が生まれる可能性があるのです。
 
友人探しには、インターネットに感謝しましょう。趣味のサークルや地域のボランティアサークルが簡単に見つかるはずです。
 
思い切って、そこに飛び込むのです。
 
僕に「お風呂の中で泣いている」という勇気ある告白をした有閑人さんですから、できるはずです。
 
何でもいいのです。興味はあとからついて来るはずです。釣りでも絵画でも社交ダンスでも山登りでもボランティアでも演劇でも読書クラブでも。
 
ただし、そこで有閑人さんは、「だらしない人」「努力しない人」「ふがいない人」と間違いなく出会います。
 
有閑人さんは、アドバイスしたくてムズムズするはずです。「どうして周りの人は言わないんだろう」「ちょっと努力するだけで、ずいぶん変わるのに」と。
 
でも、決して自分からは、相手にアドバイスしないこと。
 
「それがこの人の生き方なんだ」と思って、言葉をぐっとのみ込むこと。そこで、「あなたはこういう点がダメで~」と言い始めたら、間違いなく弟・妹さんと同じ関係になります。
「だらしない人」「努力しない人」というのは、有閑人さんからの見方でしかない、自分の価値観でしかない、それを他人に押しつけてはいけないと、肝に銘じましょう。
 
「業界の最大ではなく最高を目指す」が目標という会社があります。最大は数字ですから基準は明確ですが、最高は、人によって違うでしょう。本人が何を最高と思うかは、まったく違うと魂にまで刻み込んで下さい。そうすれば、簡単に「もっと努力しなさい」と言えないと思います。
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 奥さんとは、慎重に会話しながら、「無意識に自分の価値観を押しつけてないか」とチェックしてみて下さい。
 
「家族のためにと頑張って出世して養ってきた」という意識が、奥さんに対しての上から目線になります。これは、有閑人さんからの見方ですからね。
 
奥さんは、必死で有閑人さんを支えてきたのかもしれません。でも、有閑人さんが、それを当然のこととし、自分が「養ってきた」と思っていると感じたら、やはり、弟・妹さんと同じように、一緒にいたくないと思うでしょう。
 
ちょうど、釣りがものすごくうまくなっても、兄が「俺が教えた」「俺が指導した」と言い続けていたら、絶対に一緒に釣りには行きたくないのと同じです。
 
でも、奥さんは、有閑人さんの変化を一番、敏感に感じます。なにせ、一緒に暮らしていますからね。
 
有閑人さんが何かのサークルか集団に入り、そこで「対等な人間関係」を学び、人間の弱さやずるさ、バカさを含めて、「それが人間なんだ」と肯定的に接するようになったら、奥さんは何かを感じるはずです。
 
大丈夫。奥さんに怒鳴った後、ちゃんと自己嫌悪を感じる有閑人さんなら変われるはずです。
 
えっ? もう66歳だから、変わるには遅すぎると思う? 先月、僕が書いた「前向きになる」方法は読んでないですか?
 
「自分は、10年先から戻ってきたと思う」
 
というものです。
 
有閑人さんは、本当は76歳なのに、奇跡が起こったか、タイムマシンの魔法か、とにかく10年、時間が戻って今、66歳になった、と考えるのです。
 
どうですか? 66歳を嘆く気持ちから、可能性を感じる気持ちになりませんか?
 
66歳は決して、遅くありません。会社という価値観を外れたことで、有閑人さんは新しい人生をスタートさせたのです。新しい価値観と出会うことは、とてもワクワクすることです。今までの価値観にしがみつかず、新しい出会いに飛び込んで下さい。対等な人間関係はものすごく楽しいですよ!
 

 

顧客の心をつかむ。

*[次の世代に]営業の真髄。
キーエンスという会社の利益率が高く、もう何十年も「利益率トップ企業」であることは知っていたけれど。
その強さの秘密は「どうせ高い、唯一無二の技術力でしょ」と思っていたら、そういうことではないらしい。
自分たち一般企業の人間は、つい成功者の話を「その経営者に特有なもの」という風に曲解する。
いわゆる「引かれ者の小唄」だ。
負け惜しみである。
こういうのが一番しょうもない。
他社のいいところは素直に見ないと。
要は「顧客に合わせたきめ細かな提案」という普遍的な要素が同社の秘密らしい。
だから強いのだろう。
「機器販売なら1案件当たり1000万円でも、システムとして販売すれば数千万円になる」。
膨大な種類の中から適切な機器を選定し、ソフトと組み合わせてシステムとして構築するのは専門性の高い仕事だ。
顧客の現場ニーズを的確に捉えたシステムを納入し、高い利益率を維持し続ける。
原動力は足で稼いだ顧客データだ。
キーマン情報や現場の悩みを数十年かけて蓄積し、それを基に営業と製品開発の戦略を絶えず更新する。
営業面では「顧客への電話は週に何回が最も商談に結びつきやすいか」といったデータを製品分野ごとに毎週集計し、妥協せず無駄を省く。
飛び込みなど非効率な営業は決してしない。
製品開発で重視するのもデータだ。
開発担当者のもとには毎月、全世界の営業マンが顧客の工場に足しげく通って作成した「ニーズカード」が大量に届く。
「機器サイズを今の半分に」「ペットボトルの不良を検知できるカメラが欲しい」など、営業マンがヒアリングした顧客の悩みを詳細に記載。
開発担当者は膨大なデータを基に「まだ世の中にない機能」をキーワードに開発を進める。
これが顧客の心をつかむ。
ある中国企業は「他社がカタログベースの説明に終始するなか、キーエンスだけはニーズを捉えた提案を自らしてくる」と評価する。
営業の真髄とはこういうことなのだろう。
派手なことなどまるでない。
けれど積み重ねが、結果品質で「唯一無二」を生む。
真理は不変なのに、それに近づくのはとっても難しい。
 

平均年収2088万円 キーエンス、7期連続最高益の秘密

成長を続ける企業の条件は、いつの時代も変わらない。独自の強みを見つめ直し、徹底的に磨き続けることだ。その代表格が、工場の自動化に不可欠なセンサー機器を手掛けるキーエンスだ。多くのメーカーが相次ぎ下方修正に追い込まれた中で、2019年3月期に7期連続で最高益を更新した。同社の高収益の秘密を解剖する。
従業員の平均年収は2088万円(18年3月期)――。キーエンスは給与でも上場企業の平均値の3倍超と屈指の高さを誇る。その分、仕事はハードだ。
営業担当者の成績ランキングは常に社内で公表され、一定以下の順位にとどまると個別面談を受けることもある。「営業車には全地球測位システムGPS)が付いており、予定時間と結果が10分ずれた際、上司に理由を問いただされた」(地方の営業担当者)。労務管理はきわめて厳しい。
だが実態は、根性頼みのモーレツ営業とは全く異なる。緻密な分析を基にした「データ営業」こそが同社の特徴だ。
キーエンスの主力は工場のファクトリーオートメーション(FA)機器の制御に使うセンサー機器だ。圧力などを検出するセンサーや正確な寸法を測定する計測器、製品表面を詳細に観察するマイクロスコープなど多岐にわたる。他社の追随を許さない独自技術は持たないが、競合と比べて利ざやが大きい。19年3月期の売上高原価率は18%と、59%のオムロンを大きく下回る。
前述の地方営業担当者はこう説明する。「機器販売なら1案件当たり1000万円でも、システムとして販売すれば数千万円になる」。膨大な種類の中から適切な機器を選定し、ソフトと組み合わせてシステムとして構築するのは専門性の高い仕事だ。顧客の現場ニーズを的確に捉えたシステムを納入し、高い利益率を維持し続ける。
原動力は足で稼いだ顧客データだ。キーマン情報や現場の悩みを数十年かけて蓄積し、それを基に営業と製品開発の戦略を絶えず更新する。
営業面では「顧客への電話は週に何回が最も商談に結びつきやすいか」といったデータを製品分野ごとに毎週集計し、妥協せず無駄を省く。飛び込みなど非効率な営業は決してしない。
製品開発で重視するのもデータだ。開発担当者のもとには毎月、全世界の営業マンが顧客の工場に足しげく通って作成した「ニーズカード」が大量に届く。「機器サイズを今の半分に」「ペットボトルの不良を検知できるカメラが欲しい」など、営業マンがヒアリングした顧客の悩みを詳細に記載。開発担当者は膨大なデータを基に「まだ世の中にない機能」をキーワードに開発を進める。
これが顧客の心をつかむ。ある中国企業は「他社がカタログベースの説明に終始するなか、キーエンスだけはニーズを捉えた提案を自らしてくる」と評価する。
だが実は、営業担当者と開発担当者はほとんど顔を合わせない。資料の提示のみで新製品の説明を済ませるケースが大半だ。社内会議の時間すら惜しむのは、他社が同様の製品を出すまでに一つでも多く売るため。縦割りを徹底し、「新製品を高速サイクルで作り続ける」と、本社勤務の社員は話す。
高速サイクルの背景にあるのが、1974年の設立時から一貫するファブレス経営だ。生産委託先との取引は現金決済を採用する一方で「キーエンス向けの製品が大半を占めるようにして、仕入れ値も品質もしっかりとコントロールする」(別の営業担当者)。
故障などトラブルがあれば部品を即日配送する仕組みも好評だ。キーエンスが大量の在庫をあえて抱える格好だが、「顧客の大半はいざというときの納入スピードを重視する。キーエンスの機器が多少高くても気にしない」(同)。
19年3月期の海外売上高は11%増え、全体の53%を占めた。直販体制を生かして中小規模の案件も積極的に受注したことで、FA関連の競合が振るわなかった中国市場でも増収増益だった。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の小宮知希シニアアナリストは「キーエンスの海外販売先は約8割がローカル企業とみられ、競合は限られる」と分析する。
中国などでは中小企業の自動化が始まったばかりで、センサーを売り込む余地が多く残されている。単なる機器売りではなくシステム販売で高い利益を稼ぐには、顧客のニーズを深掘りし続ける必要がある。今後も成長を続けるには海外での人材確保と営業強化が欠かせない。
勤続平均12.2年、引き留め策課題
キーエンス時価総額は10年前と比べて約9倍に伸び、8兆4000億円前後で推移する。既にソニーを抜き国内4位で、3位のNTTに迫る。
けん引したのが10年に社長に就任した山本晃則氏だ。4月24日の決算会見では、発表予定時間の午後4時ちょうどに登場。懸案の中国経済について「これ以上下がるという印象はない」と淡々と述べ、指定の20分後にはきっかり会見を終えた。
緻密さを武器に快進撃を続けるキーエンスだが、有価証券報告書には気になる数字が載っている。従業員の平均年齢は35.9歳と若く、勤続年数は12.2年とオムロンより約5年短い。キーエンスの強みは、足で発掘したデータと新製品の高速開発に不可欠な人材だ。ある役員は「成長に伴い新卒採用を大幅に増やし、従業員数が増えているのが理由だ」と話すが、「開発部門で辞める人はあまり聞かないが、営業部門は比較的多い」と元営業マンは明かす。人材の入れ替わりが激しいこともうかがえる。優秀な人材の引き留め策も焦点になりそうだ。
工場の自動化ニーズは年々高まり、センサーを巡る競争は激化している。前述の本社勤務の社員は「オンリーワンの新製品を出し続けなければすぐに安値競争に陥ってしまう」と懸念する。世界景気が冷え込み、企業の設備投資意欲が減退すればキーエンスも無傷ではいられない。成長を続けるには、数十年かけて作り上げた高速サイクルを回し続ける必要がある。
千葉大史)
 

 

デジタル丸乗りの時代に

*[ウェブ進化論]生活のすべてを任せられるか。
JALの登場システムが不具合を起こし、34便が欠航したという。
サイバーテロ、と自分たちは口にはするが、いよいよ実際にコンピューターの不具合が「テロ化」する時代になってきた。
今回は搭乗手続きとかの「間接業務」だからまだ大事には至っていないけれど、これが「運行システムの制御」とか「自動運転システム」の不具合だったら、即人命に関わることになる。
コンピューターの役割は、いよいよ「生命に直接触れる部分」になっている。
自動運転の車や列車や航空機が暴走したら、対策は取りにくい。
「アナログでなんとか代替策が取れた時代」からいよいよ「完全にコンピューターまかせ」の時代に入りつつある。
 
もしシステムに不具合が起きた場合に「アナログで代替ができない」時代に入ったのだ。
現金が使えないお店で、電子マネーの決済が出来なければ商いは成立しない。
今は、ただひたすらに「便利に、簡単に、デジタルに」という流れだけれど、いよいよ「デジタルの信頼性」ということが議論される時代に入ったのだと思う。
 
「顔認証」で拒否されたら、身動きできない時代が来るかもしれないのだ。
その頃、「人の手続き」はなくなってしまっているだろう。
 

JAL搭乗システムに不具合。自動チェックインできず34便が欠航

2019.05.08
by gyouza(まぐまぐ編集部)
日本航空JAL)は8日、同日午前6時50分ごろから、全国の空港で旅客のチェックインや搭乗システムに不具合が発生したと発表した。同日午前8時45分には復旧したが、この影響により14時までに34便が欠航。2830人に影響が出たという。障害発生当時、搭乗手続きが空港のカウンターでのみ受け付けていたため、手続きに時間がかかり、航空機の運航に遅れなどが出たという。なお、障害が発生したのは、旅客システムのサーバと各空港の端末を通信・制御するシステムだとしている。(随時更新)
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